魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
「ここが君の暮らしていた家」
「公爵邸に比べたらものすごく質素でしょう? ちょっと散らかっていますが気にしないでください。その、私が祈りを捧げていた場所に案内します」

 レナールの表情が引き締まる。
 そのままアリーセはレナールを家の奥にある祈りの間に連れて行った。

「これは……」

 中に入ってレナールは感嘆の息をついた。
 ロストについて学び始めたばかりのアリーセだって断言できる。これはロストだ。
 改めて自分の印象が正しかったことを確認する。石の壁の質感が今まで見てきたロストに使われていたものとそっくりだ。
 アリーセは部屋の中央にある水晶玉に近づく。

「私が呪文を唱えるとこの水晶玉が白く光りました」

 魔力のために光っていたのだろう。魔力回路が光るのと似ている。
 レナールはぐるりと中を見回す。

「面白い形のロストだな。それにかなり大きい」

 推測が正しければこのロストの効果は豊穣だ。
 しかも効果はけして狭くはないラウフェン全体。
 効力の範囲が大きければ大きいほど、魔力回路は大きくなる。そう考えるの自然だ。

「こんな風に部屋の形になっているのだから、中にあるとありがたいんだが……」

 さすがに外の壁を壊すようなことはしたくない。
 アリーセとレナールは魔法回路がありそうな場所を探す。
 幸い、向かって右側の壁に溝があった。
 この部屋には祈りのためにしか立ち入ったことがなかったので、今まで気づかなかった。
 壁一面を三枚の大きな板で隠しているようだ。
 大きなものだったので、アリーセとレナールが協力して外す。
 今まで隠されていた魔法回路があらわになった。

「ここまで大きな魔法回路は見たことがない。それに……きれいなものだな」

 レナールの視線はほぼ壁一面に広がる魔法回路に釘付けだ。
 そう。魔法回路は今までアリーセが見てきたロストとは比べものにならないほどに真っ白だった。アリーセが浄化したデュラックの魔法回路よりも更に白い。
 レナールが持ってきた計測器で瘴気を計測する。どれも十以下だった。

「君の聖属性の魔力に毎日さらされてきたから、瘴気が生まれなかったのだろう。それにしても少なすぎる気はするが……。君を育ててくれた女性もここでずっと祈っていたんだよな」
「はい」

 ラウフェンが農業大国なのは昔からだ。おそらくベルタもその前の女性もこのロストを動かすために、贖罪と称して魔力を搾取されていたのだろう。

「……ん?」

 魔法回路を眺めていたレナールがふと首をかしげた。

「どうしたんですか?」
「これがロストなのは確かだが――豊穣とは少し違う気がする。そもそも、浄化魔法らしき形もない。アリーセ。君でもわかるはずだ」

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