魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 方針が決まった以上、祈りの間にいても仕方がない。
 さっさと切り上げて、アリーセは自室へ行くことにした。
 あんな形で家を出る羽目になってしまったため、アリーセは身一つでピリエに行ったのも同然だった。手元に置いておきたいものを持って帰りたい。
 レナールは食堂で待っているというので、アリーセは一人部屋に残る。
 正直、レナールに部屋を見られるのは少し恥ずかしかったので、助かった。
 小さくて質素な部屋。
 さくさく決めないと、名残惜しくなってしまいそうで、アリーセは手短に終わらせることにした。
 ベルタからもらったブローチや、お気に入りの本などを手早く厳選して持ってきたバッグに放り込む。ジギワルドから借りた本も少し迷ったが、鞄に入れた。借り物は返すべきだろう。

「レナール様。お待たせしました」

 アリーセは思い出の品が詰まったバッグを持って食堂に入った。

「もういいのか?」

 食堂で本を読んでいたレナールが顔を上げる。

「はい。大丈夫です。あまり長い時間ここにいると、感傷的になってしまいそうですし」

 いつかこの家を出ることを夢見ていた。けれど、アリーセがこの家で育ったことも確かなのだ。思い出がたくさん詰まっている。

「そうか」

 レナールは小さく微笑むと本を閉じて椅子から立ち上がった。
 元気付けるようにアリーセの頭をぽんと撫でた。なんだかその仕草がとても優しくて、胸にじんとくる。

「じゃあ、王宮に戻るか」
「はい」

 レナールと共に家を出る。ドアの鍵を閉めると、アリーセはそのまま後ろに下がった。レナールは何も言わずにその様子を見守ってくれる。
 アリーセは、森の中の小さな家の全景をまぶたに焼き付ける。

「さよなら」

 小さく呟く。おそらく、もう二度とここに足を踏み入れることはないだろう。

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