魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています
 馬車は村の宿で待たせてある。理由を話して昼間だけ部屋を借りたのだ。
 十年前のこととはいえ、この村の人間はアリーセが魔女であることを知っている。また、あのときのように糾弾されたらと考えると身がすくむ。
 行きは森の入り口まで乗せていってもらったが、帰りはそうもいかない。レナールだけ一人で宿屋へ向かうことも考えたのだが、一人になるのはそれはそれで心細い。
 結局、アリーセはレナールと共に宿屋へ向かうことを選んだ。何かあったとしても、レナールが側にいれば彼が対応してくれるだろう。

 もともと、人口がそんなに多い村ではないので、人が集まっている場所は大体把握している。人通りの少ない道を選ぶことにした。
 麦畑の中を二人で歩く。アリーセが緊張しているのに気づいたのか、ぎゅっとレナールが手を握ってきた。

「レナール様?」

 思わずアリーセがレナールの顔を見上げると、レナールが真顔で言う。

「婚約者なんだから、これくらいいいだろう? それとも嫌か?」
「その言い方はずるいです」

 ただ、その手の温もりが心地よいことも確かで、肯定する気持ちを込めて、アリーセは握った手にぎゅっと力を入れた。その反応にレナールは目を細める。
 繋ぐ手がドキドキする。
 もしかして、レナールはアリーセの緊張をやわらげるために手を繋いだのだろうか。
 そう思ったとき。

「もしかして、アリーセさんですか?」

 声変わり中の少しかすれた少年の声が聞こえて、アリーセは反射的に立ち止まった。

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