魔女と忌み嫌われた私、売られた隣国で聖女として次期公爵様に溺愛されています

19 去らなかった危機

 どきり、と心臓が嫌な音を立てる。
 声をかけてきたのは十四、五の少年だった。ラウフェンに多い金髪。おそらく村の子どもだろう。

「……」

 何か言葉を発さなければと思うのに、なかなか言葉が出てくれない。レナールがそんなアリーセを心配そうに見つめてから、少年にラウフェン語で声をかける。

「何か彼女に用事ですか?」

 相手が少年だからだろう。レナールにしては柔らかい声音だ。

「用事というか……ずっとアリーセさんに謝りたいと思っていて」
「え?」

 少年の言葉にアリーセは驚く。それが彼にとってはアリーセだという答えになったらしい。少年がアリーセの方を見た。

「昔、アリーセさん、おれのことを魔法で助けてくれたことがあったでしょ? そのとき、大人たちが魔女だって騒ぎ出して、おれ、まともにお礼も言えなかった。それからアリーセさん、村に来なくなっちゃうし。そのときのことがずっと引っかかっていたんだ。おれのせいであんなことになって、本当にごめんなさい」

 少年は深々と頭を下げた。
 魔女だと責められることを覚悟していたアリーセは、少年の思いもしなかった言葉に驚いてしまった。おずおずと尋ねる。

「あなたは魔法が怖くないの?」
「怖いものだって教わっていたけれど、でも、アリーセさんは魔法で俺を助けてくれたでしょ? アリーセさんが助けてくれなかったら、おれ、きっと大けがをしていたはずだ。誰も大人はおれのいうこと聞いてくれなかったけど。だから、アリーセさんの魔法は怖くないよ。魔法にも種類があるんだと思う」

 少年の言葉は真摯だった。本気でそう思っているのが伝わる。
 魔女だと責められたときの恐怖は今でも忘れられない。
 でも。あのとき幼かった彼を助けたことはやはり正解だったのだ。
 今、アリーセは初めてそう心から思うことができた。

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