女王陛下は溺愛禁止!
「どうせまたぎらぎら孔雀なのであろう」
「そうおっしゃいますな」
 ラドウィルトは包みを破り、その絵画をアンジェリアに見せる。

 アンジェリアは軽く驚きを見せた。
「随分と質素だな」

 木の深い色合いを活かした額縁だった。彫刻などの装飾はなく、金や宝石の象嵌もない。
 描かれた人物の服装もシンプルだった。
 流行の風合いはなく、それでも美麗で繊細な筆使いがわかるようなタッチだった。
 シンプルだからこそ、画家の技量が試される。誤魔化しの効かない絵姿だ。

 きりりとした顔立ちに、強い輝きを秘めたセピアの瞳。キャラメルのような茶色の髪はまるで一本一本描かれたかのように流麗で、今にも動き出しそうだ。シンプルだからこそ人物に注目するし、その魅力も伝わってくる。見る限りでは誠実そうであり知性を感じさせ、かといって柔弱(にゅうじゃく)ではない。胸板には服越しの筋肉を感じるし、腰につけた質実剛健な剣にすら武道の自信が溢れている。

「これは……うまいな」
 絵のことだけではない。アンジェリアに送られる多数の絵姿とその額縁、それらを予想し、印象に残るためにその逆を狙ったのだろう。賑やかを通り越してうるさいほどの主張をしてくる絵姿の中にあって、それは返って目立つ存在となっていた。
 華美な額縁や絵姿の中で、一見は質素に見える、上質なオーク材を使った落ち着いた額縁に、画家の技術の粋を極めた絵姿。
 むしろこちらの審美眼を試されているような挑戦的な気配さえある。これを見抜けないような女に用はない、と。

「しかも……に似ている」
 そのつぶやきは小さくて、ラドウィルトには届かなかった。
< 4 / 57 >

この作品をシェア

pagetop