女王陛下は溺愛禁止!
「ようやくお眼鏡にかないましたか? しかし、この絵姿、名前がございませんね」
 ラドウィルトは絵の額縁の裏を確認する。ほかの絵姿は裏に肖像の人物名が記されているのだが、これにはなにも書かれていない。

「それもまた気をひくための策であるやもしれぬな。小細工が多いことよ」
 アンジェリアはどうでもいいことのように言い、紅茶を飲み干す。

「絵画鑑賞はこの程度で良かろう。そろそろ先祖伝来の儀式の時間だ」
 アンジェリアはそう言って椅子から立ち上がった。



 アンジェリアはラドウィルトとともに王宮の地下の階段を下っていた。
 剥き出しの石壁に囲まれたその階段は暗くじめじめとしていて、おどろおどろしい。
 カンテラの明かりは頼りなくて、先はまったく見通せない。

 地下神殿に着くと、ラドウィルトはカンテラを扉の近くの小窓に置いた。
 それだけで神殿全体が明るく照らされる。
 過去に魔力をこめて作られた道具がカンテラの明かりを増幅して全体を照らしているらしいのだが、その仕組みは解明されていない。

 神殿の壁にはこの国で主に信仰されている神々の姿が、豊穣の楽土ともに描かれている。
「神を封印しているというのに神々が描かれているとは皮肉だな」
「今さらそれをおっしゃいますか」
「ずっと思っていたことだ」
 アンジェリアは答える。
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