こじらせ美女は王子様の夢を見る
初恋









久しぶりに会った玲央は、






昔と変わらず、綺麗な顔のまま、





男になっていた。





私の初恋の、玲央そのまま。





彼の腕に抱きついた時に、服の上からでもわかる





筋肉は、私を少しときめかせる。








「あ、玲央彼女いないの?」



「いや、今更かよ。いたら、住まわせねーし。」



「はは、そうだよね!私、彼氏できたらすぐ出て行くから!」



「は?彼氏?」



「うん!彼氏できたら、彼氏の家に行く!玲央にいつまでも迷惑かけるのはあれだしさ、早く東京男子捕まえるね!




「勝手にしろ。あ、俺に彼女できたら絶対出てけよ」




「え!?なんで!?」




「なんでって、彼氏が他の女と一緒に住んでて嫌じゃない女がいるかよ」




「……わかったよ、てかさ、玲央何で彼女いないの?まあ、あんた性格悪いから…

「出てく?」

…せ、性格もいいし、顔もいいのに!」



「この前別れた」



「ふーん、何で?」



「…別に、好きじゃなかった」



「ん?じゃあ何で付き合ったの?」



「……ノリ?」



「うーわ、信じらんない」




玲央は舌打ちしながら口を尖らせる。



気に入らない時の癖。



変わらないな。




「そうゆうお前は?彼氏いなかったのかよ」



「うん、私彼氏いたことないよ」



「は?中学からモテてたんだろ?」



「うん、でも何かこうグッとくる人がいなくてさ」



「何だそれ」









「ほら、運命の人ってさ初めて見た瞬間に、この人だってわかるって言うじゃん?王子様だって。私初めての彼氏はそうゆう人がいいの、」









初めて玲央を見たあの時のように、






一目で、胸が熱くなって、






運命だって思えるような。







そんな人。







ー14年前






玲央と初めて会ったのは桜が満開の晴れた日だった。





親が転勤族で初めてきたこの街には、友達なんていなくて。




人見知りで臆病だった私は、いつも近所の公園で1人で遊んでた。





「おい、ボール取って」





背後から声がして振り返れば、同世代の男の子にしては大人びた綺麗な顔の少年がいた。



かっこいい…



桜の花びらが舞い落ちて、本物の王子様だと思った。




「おい」




彼のその声にふと我に帰った私は、足元に転がったボールを拾った。




「はい、」ボールを渡す手がひどく震えた。




「ありがと」




不器用にそう言った彼は友達のところへと戻っていった。




それから、度々その公園で彼を見た。





「お前、いつも1人でいるよな」




ある日、彼から突然声をかけられた。




「え?……うん」


「友達いねーの?」




いきなり話しかけられたことと、直球の質問に口を黙らせて俯いた。




「お前、名前何」




彼は舌打ちをして、めんどくさそうにそう聞く。




「ミナ…桜井ミナ」








「ミナ、こっちこいよ」








この一言に、心臓が締め付けられたことを覚えてる。




彼の名前は「大和玲央」




彼の名前を知った日は家でノートに書いて練習した。




玲央の周りにはいつでも人がいた。




それから彼と毎日一緒に遊ぶようになった私は




彼の友達から「デブミナ」そう呼ばれるようになった。




その時はそこまで気にしてなかった。




だって、その通りだし、玲央も笑ってる。




それでいい。




…それで。





「わー!デブミナが泣いたー!」





いつだっただろう。




容姿について言われてるときに泣いた。




積もってたものが溢れ出した感覚。




気にしてないわけない。




やだ。玲央の前でそんなこと言わないで。




ふと、玲央を見ると女の子が玲央にくっついてひそひそしながらこっちを見ていた。




ああ、やっぱり玲央もああゆう女の子がいいのか。




おしゃれで可愛くて細くて




私とは真逆




もう何もかも、どうでもよくなった。




その時ちょうどお父さんの転勤も決まって、




この人たちにはもう会わないんだしって、割り切れたけど




玲央だけは、




諦めたくなかった。




引越しの日、なんとなく玲央と初めて会った公園に行った。




いや、多分期待してた。




また桜が咲いてる時期だった。





「おい、ボール取って」





玲央は冗談混じりに笑いながらそう言った。ボールなんてないのに。胸がきゅっとなった。




「玲央」


「なにしてんの」


「別に、見てただけ」


「お前ほんと桜好きな」




引っ越しのことは誰にも言わなかった。




これが、玲央との最後の会話。




泣きそうな気持ちをぐっと堪えた。





「うん、好き」





玲央を思い出すから。




あの日、桜の中にいた王子様。




きっと一生忘れない。




「まあお前、桜っぽいもんな」



「え?」



「名前についてんじゃん。桜。」






桜井ミナ




これが自分の名前でよかったって思ったのは




きっと後にも先にもこの時だけ。





「初めて会ったときも桜咲いてたし」





玲央は桜を見ながらふ、と笑った。









「桜見たらミナのこと思い出す」









これが、初恋の人との最後の会話。


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