【Guilty secret】
 二人の部屋は506号室。部屋の床はチェス盤に似た白黒の格子模様、白くて大きなベッドに、ソファーやクッションはワインレッドでシックな雰囲気だった。

『本当はもっとちゃんとした宿に連れて行きたかったけど、こんな場所でごめんな』
「気にしないでください。また今度、そういう場所に行けたらいいな」

 “また今度” と芽依が何気なく言った言葉が赤木の心の翳りを濃く染める。荷物をソファーに置いた彼女を赤木は抱き締めた。

『10年振りに一緒に風呂入るか』
「……はい」

 赤木と書店で顔を合わせた時から鳴り止まない芽依の心臓の鼓動は、最高潮に高鳴っている。低いトーンの彼の囁きに酔って目眩がしそうだ。

今日の赤木はとても優しい。頑なに10年前の約束を守り続けていた彼が、今日は積極的に芽依に触れていた。

「あの……なんで部屋からお風呂場が見えるんですか? しかもカーテンが部屋側についてるなんて、部屋にいる人にお風呂入ってるところを見られちゃいますよね……?」
『ラブホの風呂はそういうもんだろ。一緒に入るんだから気にするな』

 部屋からはガラス越しに浴室が丸見えだった。部屋と浴室を仕切るカーテンも部屋側についている。

これではどうしたって部屋にいながら入浴を覗けてしまうのだが、ここはそういうホテルなのだから当然と言えば当然だろう。

 赤木は手早く服を脱いでひとりで浴室に行ってしまった。赤木の裸をまじまじと見たのは今日が初めての芽依には、それだけでも刺激が強すぎる。

風呂場にいる赤木の姿がガラス越しに見えた。羞恥心を抱えて芽依も服を脱いで浴室に向かう。
すぐさま赤木に抱き寄せられて、彼の濡れた肌から落ちる水滴が芽依の肌を湿らせた。

『10年経つと女は変わるな。10歳が20歳だ。女の成長は怖い』
「話の意味がよくわかりません……」
『俺はロリコンじゃなかったのに、どうしてこうなったんだろうって話』

 丸い形の浴槽に二人で浸かる。蛇口から止めどなく流れる透明のお湯は浴槽に注がれた瞬間に乳白色に変化した。

湯船に入れたアメニティの入浴剤は安っぽいローズの香りがする。
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