【Guilty secret】
「赤木さんの部屋はもう片付けられました?」
『いいや……家具は業者に引き取ってもらいますが、他の荷物の片付けはまだです。日常のゴミの処分は昨日のうちにやってあると赤木さんが言っていたので、とりあえず目についたゴミをゴミ袋に入れただけです』
管理人は大きなゴミ袋を二つ抱えていた。このまま部屋を片付けられては、手に入れられる物証も捨てられてしまう。
「赤木さんのお部屋を見せていただきたいのですが。捜査への協力をお願い致します」
『はぁ……いいですよ。しかし刑事さんも大変だねぇ。お腹にお子さんがいるのに。最近冷えるから身体大切にしてくださいな、うちもねぇ、来月に孫が産まれるんですよ』
妊婦姿で刑事の肩書きを背負う真紀は、ある種の異様な視線で見られる。それほどに刑事と妊婦はひとつの線で結び付かないのかもしれない。
初孫の誕生を心待ちにする管理人の世間話に少しだけ付き合った後に真紀と矢野はオートロックの向こう側、住居フロアに足を踏み入れた。
『俺達の動きに勘づいて逃げたか?』
「でもどこで? 勘づかれるほどこっちは派手に動いてないよ。私達は清宮芽依との接触もまだなのに……」
『派手に動いてたのは西崎沙耶だけど、赤木が西崎沙耶に10年前のことを突っ込まれただけで逃げるとは思えない。西崎沙耶は事件そのものよりも、事件後の芽依の動向を追っていただけだからな』
「赤木に警察の動きを察知するコネでもあるのかしら」
エレベーターを八階で降りて、804号室に到着した。管理人に借りた鍵で扉を開けて二人は赤木奏の部屋に入った。
家宅捜索の令状はなく正式な捜査にはならないが、真紀が欲しいのは10年前の犯行現場に残された遺留物であるAB型の毛髪と同等の物的証拠。
「管理人さんが片付けた後だと物がないわね」
ワンルームの部屋にはベッドとローテーブル、本棚とテレビや冷蔵庫の家電しかない。本棚に入っていたと思われる本は積まれて紐で縛られている。クローゼットの中の洋服もわずかだった。
日常のゴミは赤木本人が片付けたと言った管理人の証言通り、部屋のゴミ箱にゴミはない。
真紀は浴室に入った。風呂とトイレが一緒になっているユニットバスタイプだ。
妊娠中の膨らんだお腹で下を向いてしゃがむ姿勢はなかなかにキツい。彼女は浴室の入り口から矢野を呼んで、排水溝の蓋を開けさせた。
排水溝のヘアキャッチャー部分に黒色の毛髪が絡まっている。
『ラッキー。排水溝に髪の毛残ってた』
「他の場所は念入りに掃除しても水回りは盲点なのよ。風呂場の髪の毛を処分する余裕もないくらい、慌てていたのかもね」
真紀がピンセットを使って排水溝から毛髪を抜き取り、採取した毛髪はビニール袋に保管された。
「この髪をDNA鑑定して10年前の遺留物の毛髪とDNAが一致すれば赤木の逮捕状を請求できる」
『動かぬ証拠だな。問題は赤木の行方か。でもこれだけ部屋に何もないと行き先の手掛かりになる物は見つからなさそうだな……』
浴室の隣はキッチンになっている。矢野がふと目を留めた食器棚の上には真新しいココアパウダーの袋がひとりぼっちで佇んでいた。
『いいや……家具は業者に引き取ってもらいますが、他の荷物の片付けはまだです。日常のゴミの処分は昨日のうちにやってあると赤木さんが言っていたので、とりあえず目についたゴミをゴミ袋に入れただけです』
管理人は大きなゴミ袋を二つ抱えていた。このまま部屋を片付けられては、手に入れられる物証も捨てられてしまう。
「赤木さんのお部屋を見せていただきたいのですが。捜査への協力をお願い致します」
『はぁ……いいですよ。しかし刑事さんも大変だねぇ。お腹にお子さんがいるのに。最近冷えるから身体大切にしてくださいな、うちもねぇ、来月に孫が産まれるんですよ』
妊婦姿で刑事の肩書きを背負う真紀は、ある種の異様な視線で見られる。それほどに刑事と妊婦はひとつの線で結び付かないのかもしれない。
初孫の誕生を心待ちにする管理人の世間話に少しだけ付き合った後に真紀と矢野はオートロックの向こう側、住居フロアに足を踏み入れた。
『俺達の動きに勘づいて逃げたか?』
「でもどこで? 勘づかれるほどこっちは派手に動いてないよ。私達は清宮芽依との接触もまだなのに……」
『派手に動いてたのは西崎沙耶だけど、赤木が西崎沙耶に10年前のことを突っ込まれただけで逃げるとは思えない。西崎沙耶は事件そのものよりも、事件後の芽依の動向を追っていただけだからな』
「赤木に警察の動きを察知するコネでもあるのかしら」
エレベーターを八階で降りて、804号室に到着した。管理人に借りた鍵で扉を開けて二人は赤木奏の部屋に入った。
家宅捜索の令状はなく正式な捜査にはならないが、真紀が欲しいのは10年前の犯行現場に残された遺留物であるAB型の毛髪と同等の物的証拠。
「管理人さんが片付けた後だと物がないわね」
ワンルームの部屋にはベッドとローテーブル、本棚とテレビや冷蔵庫の家電しかない。本棚に入っていたと思われる本は積まれて紐で縛られている。クローゼットの中の洋服もわずかだった。
日常のゴミは赤木本人が片付けたと言った管理人の証言通り、部屋のゴミ箱にゴミはない。
真紀は浴室に入った。風呂とトイレが一緒になっているユニットバスタイプだ。
妊娠中の膨らんだお腹で下を向いてしゃがむ姿勢はなかなかにキツい。彼女は浴室の入り口から矢野を呼んで、排水溝の蓋を開けさせた。
排水溝のヘアキャッチャー部分に黒色の毛髪が絡まっている。
『ラッキー。排水溝に髪の毛残ってた』
「他の場所は念入りに掃除しても水回りは盲点なのよ。風呂場の髪の毛を処分する余裕もないくらい、慌てていたのかもね」
真紀がピンセットを使って排水溝から毛髪を抜き取り、採取した毛髪はビニール袋に保管された。
「この髪をDNA鑑定して10年前の遺留物の毛髪とDNAが一致すれば赤木の逮捕状を請求できる」
『動かぬ証拠だな。問題は赤木の行方か。でもこれだけ部屋に何もないと行き先の手掛かりになる物は見つからなさそうだな……』
浴室の隣はキッチンになっている。矢野がふと目を留めた食器棚の上には真新しいココアパウダーの袋がひとりぼっちで佇んでいた。