【Guilty secret】
34.真実は最後に残ったもの。
 午前11時、清宮家。芽依は自室のベッドに伏せていた。握り締めた携帯電話のアドレス帳欄を見つめる。

赤木奏の名で登録された携帯番号とメールアドレスはどれだけ願っても繋がらない、ただの数字とアルファベットの羅列に成り下がっていた。
赤木と連絡が取れないショックでほとんど眠れず、今日は大学を休んでしまった。

 部屋の扉がノックされる。細く開いた扉から顔を覗かせた母がベッドにいる芽依に告げた。

「芽依ちゃん。警察の方がいらしてるの。10年前の事件のことでお話があるそうよ」

10年前……また?
記者の西崎沙耶も10年前の事件を調べていた。なぜ今になって、それも警察が?

「芽依ちゃん、はじめまして。警視庁の小山です」

扉の向こうで女性の声が聞こえた。ベッドに伏せたまま芽依は顔だけを扉に向ける。

「10年前の事件の話を聞きたいの。……赤木奏さんのことで」
「……赤木さんのこと?」

 赤木の名前に反応した芽依はベッドを降りて扉まで駆け寄った。細く開いた扉越しに女性の顔が見える。

「赤木さんがどこにいるか知ってるの?」
「二人だけで話をしましょう。お部屋に入れてくれる?」

小山真紀は芽依に見えるように警察手帳を掲げた。真紀の警察手帳を一瞥した芽依は黙って頷き、彼女を部屋に入れる。

「お母さん、ここからは芽依ちゃんと二人で話をさせてください」

 真紀は廊下にいる倉持警部と視線を合わせた。倉持が困惑する芽依の養母を連れて廊下を行くと、彼女は後ろ手で扉を締める。
芽依の視線は真紀の大きな腹部に注がれた。

「刑事さんお腹に赤ちゃんいるんですね。いつ産まれるの?」
「来年の初めよ」

芽依の感情のない瞳は真紀の腹部の膨らみを映してはいても、彼女の瞳には本当は何も見えていないように感じた。
言動も20歳にしてはやけに幼い気がする。

 清宮邸は純和風の造りの平屋で、芽依の部屋だけは洋風の造りだった。9年前に芽依を養子として迎え入れる時にこの部屋だけ洋風にリフォームしたのだろう。

「赤木さんのことを知ってるよね。彼は10年前に芽依ちゃんが仲良くしていたお兄さんだったのかな?」

 芽依は焦点の定まらない眼差しでベッドに腰かけている。真紀はクッションの上に座った。

 心ここにあらずな今の芽依に10年前の真実を訊ねることは、彼女の心にさらなる追い討ちをかけてしまう。だがこれが刑事である真紀の仕事だ。

質問に芽依は答えなかった。答える代わりに彼女は携帯電話の画面を見つめている。
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