【Guilty secret】
「赤木さんどこ行っちゃったんだろ。携帯に電話しても繋がらなくてメールもエラーになる……」
「赤木さんは携帯を解約して自宅も退去手続きをしていたわ。私達も赤木さんを捜しています。……芽依ちゃん」

 真紀に呼ばれて顔を上げた芽依の瞳に涙が浮かぶ。

「10年前に芽依ちゃんのご両親を殺害したのは赤木さんだよね?」
「……違う」

 首を左右に振って耳を塞ぐ。何も見えない、何も聞こえない。芽依は赤木以外のこの世のすべてを全身で拒絶していた。

「違う、違う! 赤木さんじゃない……」
「ご両親が殺害されたリビングのカーペットにはご両親や芽依ちゃん以外の髪の毛が落ちていました。赤木さんの自宅から採取した髪の毛とDNAが一致したの。赤木さんがご両親を殺害した犯人ではないのなら、どうして殺害現場に彼の髪の毛が落ちていたの?」
「……あっ……違うの……あ、赤木さんは……お兄ちゃんは……違う……」

一気に脳裏に流れ込む真っ赤な土石流。夢で見た世界と同じ真っ赤な世界。


 ──赤い赤い水溜まりにふたつの人形が沈んでいる
 ゼンマイの切れた人形は動かない


 真っ赤な世界にいるあの子の手には銀色のナイフ
 真っ赤に染まった銀のナイフ


 真っ赤な世界のあの子はだぁれ?
 みぃーつけた。

 あの子は私。10歳の私──



「あの人達を殺したのは……赤木さんじゃない。……私……が……殺した……」

 芽依は震える両手を見下ろした。この手はあの時、血に染まった。真っ赤な真っ赤な血に染まり、もみじの葉っぱみたいだった。

 真紀は小さく溜息をついて立ち上がり、芽依の傍らに座った。小刻みに震える芽依の身体を抱き締めて背中をさする。

「もういい。もういいよ。ごめんね」
「私が……殺ったの。赤木さんじゃない、赤木さんは悪くないっ!」

真紀の服に芽依の涙が染み込んでいく。泣きじゃくる芽依の髪を真紀は優しく撫でた。

 10年前の芽依が本当に求めていたものは親の愛情。本当はこうして母親に抱き締めて欲しかったのだ。
親の代わりに、芽依に愛情を与えた存在が赤木奏。

「赤木さんの行き先に心当たりはない?」
「わかり……ません……。だって昨日までずっと一緒にいたの。ずっと一緒にいたのに……なんで……」

 これ以上、芽依から聞けることは何もないと真紀は判断した。
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