【Guilty secret】
 赤木を失った今の芽依は10年前の10歳の佐久間芽依に戻っている。言動が幼いのはそのためだ。

「……刑事さん、私を逮捕してください。私があの人達を殺したの」

芽依が真紀に両手を差し出した。真紀は彼女の手を包み込んで下ろさせる。

「芽依ちゃんの言ったことが事実でもあなたは当時10歳だった。芽依ちゃんにも、これから警察や裁判所から沢山の人が話を聞きにくると思う。でも現段階で警察は赤木さんを重要参考人として手配することを決定しました」
「そんな……違うの! 赤木さんは私を助けてくれただけ……。あの人達のペットだった私を救ってくれただけなのっ! お願いだから赤木さんを捕まえないで……」

 芽依の涙の懇願は聞き入れられない。泣きわめく芽依を残して真紀は部屋を出た。
居間では倉持警部から事情を聞かされた養母が放心した面持ちで座っていた。

「お母さん。これから先、芽依ちゃんは辛い思いをするでしょう。ご両親が支えになって、いつまでも芽依ちゃんの味方でいてあげてください」

養母は涙ぐんでいた。せめて養父母だけでも変わらず芽依の味方でいて欲しい。

 清宮家を辞した帰りの車内では真紀も倉持警部も表情は冴えない。10年前の真実は暴いてはいけない、誰も幸せにならない絶望の真実だった。

「私が殺したと芽依ちゃんは言っていました」
『やりきれないな……』
「赤木を捕まえないでと言われた時、一瞬迷いました。本当に裁かれるべきは赤木ではないかもしれないと……そう思ってしまって。刑事失格ですね」

助手席の窓を開けるとどこからか漂ってくる金木犀の優しい香りにホッとした。秋の匂いだ。

『小山はよくやったよ』

 金木犀の懐かしい甘い香りと倉持からの言葉に視界が滲む。

 本当に裁かれるべきは親でありながら娘に愛を与えなかった佐久間夫妻ではないのか?

彼らは被害者だ。しかし同時に加害者でもあった。
芽依は加害者だ。しかしその前に親の身勝手さに苦しめられた、愛に飢えた小さな被害者だったのだ。

本当に裁かれるべきは……誰?

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