【Guilty secret】
『国井が西崎沙耶に言ったドッペルゲンガーって誰のことだと思う?』

 早河が話題を変えた。風見新社のジャーナリスト、国井龍一殺害事件の捜査は継続しているものの、容疑者として疑わしい人間は浮上していない。

ブラックジャーナリストとして有名だった国井を恨む人間は多数いるが、事件前の国井の言動や殺害状況から個人的な怨恨の線は薄いと判断された。

 手掛かりとなるのは国井が沙耶に語ったドッペルゲンガーの意味。

『国井が浅丘美月とカオスを調べていたのなら、ドッペルゲンガーってのもカオスに関係した誰かさんの比喩ってところでしょうか』
『ドッペルゲンガーの正体は三浦英司……いや……もしかすると佐藤瞬か』
『でも佐藤は5年前に……』

5年前に死んだ男の名に矢野が戸惑う。早河はコーヒーが冷めないうちに一気に飲み干した。

 視線の先には真っ赤な太陽が、ビルとビルの間から顔を覗かせている。
2年前の犯罪組織カオス壊滅から早河の心に現れた不明瞭な直感は今もくすぶり続けていた。

『なぁ、矢野。もしも佐藤瞬が生きているとすれば、この件はこれ以上深入りしない方がいいのかもしれない』
『早河さんらしくないこと言いますね』
『俺らしくない……そうだな。ただ、佐藤が生きているなら誰に一番影響があるのかってことを、考えちまったんだ』

佐藤瞬の生存によって影響がある人物はたったひとり。

『浅丘美月のことですか?』
『ああ。たとえ真実だったとしても彼女が知らない方がいいのか、知った方がいいのか。俺達が決めることじゃないしな』

 真実とはなんだろう。知らなければいけない真実があるのなら、知らない方が幸せな真実もきっとある。

この不明瞭な直感の真実は絶望の真実? それとも希望の真実?
どちらだろう?
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