【Guilty secret】
5.癒えない傷
10月9日(Sun)

 沙耶は東京都国分寺市に向けて車を走らせた。行き先は国分寺市内にある児童養護施設〈みどり園〉だ。

 国井副編集長に10年前の佐久間社長夫妻殺人事件の特集記事を任されてから一夜明け、沙耶はすぐに小平市に住む実家の母親に連絡を取った。

 沙耶の母は町内では情報通と知られている。言ってみれば噂好きのうるさいオバサンだ。
あの母ならば、10年前に殺害された佐久間夫妻の娘がどこの施設に引き取られたのか知っているのではと彼女は考えた。

沙耶の勘は大当たり。母から佐久間夫妻の娘は小平市の隣の国分寺市の養護施設に引き取られたと教えてもらった。

 10年も前のことを覚えている母の記憶力と衰えを知らない情報収集能力には呆れを通り越して脱帽するが、今回だけは母の記憶力と噂好きの性格に助けられた。

みどり園側には午前中に取材の旨を伝えてある。電話の対応では随分警戒した様子だったが園長が渋々取材を承諾してくれた。

 一軒家やアパートが並ぶ住宅街の一角にみどり園は建っていた。園側から指定された園の駐車場に車を停める。

駐車場と駐輪場が一体になった敷地の隣にはビニールハウスと畑があり、養護施設の職員と思われる大人と子ども数名が土いじりをしていた。

 門の向こうの庭でも子ども達が遊んでいる。子ども達の輪の中にエプロンをした若い女性がいた。彼女もここの職員だろう。
沙耶は門扉を挟んで女性に声をかけた。

「こちらの長屋《ながや》園長と14時に取材の約束をしている風見新社の西崎と申します」

 門扉越しに沙耶は名刺を差し出す。女性は戸惑いがちに名刺を見てから「ああ……」と小声で呟いた。

「門を開けますのでお待ち下さい」

彼女はエプロンのポケットから門の鍵を出して鍵を外し、沙耶に向けて門扉を開いた。

「アヤコ先生ー! ショウ君が滑り台の順番守らないのぉー!」

 5歳くらいの少女が女性に駆け寄ってくる。少女は“アヤコ先生”のエプロンの裾を引っ張った。

「ショウ君、順番は守らないとダメよー! ……すみません、どうぞ」
「先生、この人だぁれ?」

園に入ってきた沙耶に少女は興味津々のようだ。

「園長先生のお客様よ。ミライちゃんはみんなと遊んでいてね」

アヤコ先生に言われて“ミライちゃん”は庭で遊ぶ子どもの群れに帰っていく。
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