【Guilty secret】
 廊下を曲がった先の茶色の扉をアヤコ先生がノックする。

「お客様をお連れしました」
「どうぞ」

 品のいい婦人の応答の後にアヤコ先生が扉を開けた。短く刈り上げた白髪に銀縁の眼鏡をかけた婦人が立ち上がって沙耶を迎える。

「みどり園の園長の長屋です」
「風見新社の西崎です。この度はお時間をいただきましてありがとうございます」

沙耶の名刺を受け取った長屋園長は手振りで彼女をソファーに勧めた。

「本音を言えばあなたとお会いしたくはありませんでした。個人のプライバシーを無断で抉《えぐ》るマスコミを好いてはいませんので」
「承知しております」

沙耶はソファーに座って頭を下げた。この園長の前では肩に力が入り萎縮してしまう。

「取材と言うのは佐久間芽依ちゃんのことですね」
「はい。お電話でも申し上げました通り、弊社の雑誌で未解決事件の特集を予定しています。10年前の佐久間夫妻の事件も取り扱うことになりました。殺害された夫妻のお嬢さんの芽依ちゃんが事件後こちらに引き取られていたと知り、当時の芽依ちゃんの様子などを……」
「要するに佐久間芽依ちゃんが今どこでどうしているのかをお知りになりたいのでしょう?」

 長屋園長の射る視線に沙耶はたじろいだ。養護施設の園長ともなれば子ども達を守るための剣となり盾となり、常に世論と戦っている女性なのだろう。

「ご存知の通り、ここは養護施設です。環境や金銭的に恵まれて何不自由なく親に愛情を注がれて育ってきた子どもはここに居ません。ナイーブで繊細な子達が集まっています。退所した子のプライバシーを簡単に外部に漏らす行いは致しません」

想像以上の手厳しさだ。しかしここで易々と引き下がっていては社会部の記者は務まらない。

「重々承知しております。けれど私も報道に携わる者として事件を解決に導く手がかりを見つけ出したいと思っています。私の実家は佐久間さんのご自宅の近所にあります。芽依ちゃんとも面識がありました。ですからこのまま犯人が逮捕されないままなんて、そんな悔しいことはありません。芽依ちゃんに当時の話が聞ければ何かわかるかもしれないんです。どうかお願い致します」

 園長へ深々と頭を下げる。
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