【Guilty secret】
6.落ち葉の約束
 10年前、2001年11月

 佐久間芽依が児童養護施設みどり園に入所して2週間になる。室内で思い思いに遊ぶ子ども達の中で少女は誰とも口を利かずひとりで絵を描いていた。

「芽依ちゃん何描いてるの?」

長屋園長が声をかけても芽依は沈黙を守ったまま赤い色鉛筆で絵を描いていた。

「落ち葉? もみじの葉っぱかな? 上手だねぇ」

 園長は白い画用紙に次々と描かれる赤い葉の絵に感心した。赤い落ち葉はお世辞ではなく本当に上手い絵だった。

葉脈までひとつひとつ丁寧に描かれ、ギザギザと細かく刻まれた葉の形、色の付け方も赤、ピンク、オレンジ、茶色を使って濃淡をつけている。

 芽依の母親の佐久間聡子は教育熱心な親だったらしく、習字や英会話塾に芽依を行かせていたとは聞いているが、絵画教室に通わせていた話は聞いたことがない。

だが芽依の絵の描き方はプロに教わったとしか思えないほど、小学生が描くにしては非常に精巧な絵だった。

 芽依はハサミを器用に操って描いた落ち葉の絵を切り抜いた。白い紙から切り抜かれた赤い落ち葉は本物のもみじの葉のようだ。

「凄いね! 本物そっくりだ」

園長が褒めると芽依が初めてにこっと笑った。作品を褒められたのが嬉しかったらしい。彼女は笑うとえくぼのできる笑顔の可愛い少女だった。

「この葉っぱの作り方は誰かに教えてもらったの?」

 園長が尋ねると笑っていた芽依の瞳にまた影が差し、可愛い笑顔は元の無表情に戻ってしまった。園長の質問を無視して芽依は黙々と葉を切り抜いている。

 芽依の落ち葉の作品は園内で有名になり、芽依が作った落ち葉を集めた貼り絵は額に入れられて園の玄関に飾られた。
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