【Guilty secret】
 現在、2011年10月9日

 長屋園長が沙耶を玄関に案内する。アヤコ先生に連れられて入った玄関は職員用だったが、ここは児童用の玄関だ。

子ども達の靴が並ぶ靴箱の隣、白い壁を背にして40号サイズの額が飾られている。

「これが10年前に芽依ちゃんが作った落ち葉の貼り絵です。10年経った今でも飾ったままにしています」

 額の中には画用紙いっぱいに貼り付けられた赤い落ち葉。様々な形の葉は葉脈の模様も丁寧に描き込まれ、落ち葉の赤の色合いも絶妙な濃淡だ。

 背景は絵の具で描かれた真っ赤な夕日。茜色の夕焼け空に赤い落ち葉がひらひら舞っていた。
絵心のない沙耶でも、この絵を当時小学生の少女が作り上げるには常軌を逸していることはわかる。

「凄いですね……これを芽依ちゃんが?」
「ええ。落ち葉も夕日もすべて芽依ちゃんがひとりで作ったものですよ」
「当時10歳の子がひとりで全部? 信じられない……プロ並みですよこれは」

昔に何度か遊んだことがある佐久間芽依にここまで絵の才能があるなんて知らなかった。

「私も信じられませんでした。芽依ちゃんは驚くほど絵が上手だったんです。彼女は絵画教室に通っていた経験はありません。芽依ちゃんの絵の才能が天性のものか、誰かに教わったものかもわかりません」

園長もじっと落ち葉と夕日の赤い情景の作品を見つめている。

「私も芽依ちゃんと遊んだことがありますけど芽依ちゃんが絵を描いてるところを見たことはありません。落ち葉の作り方や絵の話になると芽依ちゃんは口を閉ざしてしまうんですよね?」
「そう。ここにいる1年の間に他のことはお話してくれるようになったんです。でも事件の話と絵のことは……。折り紙で落ち葉を折るのも上手でしたね。そういった創作を誰に教わったのか聞くと芽依ちゃんはいつも黙ってしまうの」

 外で遊んでいた子ども達が戻って来た。元気いっぱいな子達の中には沙耶を見ると職員の後ろに隠れてしまう少年や少女が数人いて、アヤコ先生や園長が「大丈夫だよ」と優しく声をかけていた。

廊下を行く子ども達の賑やかな声が少しずつ遠ざかって玄関前は再び静寂に包まれた。
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