【Guilty secret】
 長屋園長は戸棚からファイルを出して何かを探している。

「だけど私も知りたいのです。私達に心を開かなかった芽依ちゃんが何をそんなに守っていたのか。あの小さな体で誰を必死に守っていたのか知りたいと思っています」

ファイルのページを見ながら園長はメモ用紙にあることを記入する。そのメモを沙耶に渡した。

「芽依ちゃんは子どものいないご夫婦と養子縁組をしました。これが今の彼女の名前です」
「清宮芽依……」

 園長の達筆な文字で書かれた清宮芽依の名は、沙耶の知る10年前の佐久間芽依がすでに存在しないことを意味していた。

 みどり園を出て車に戻った沙耶は園長に渡されたメモを見つめる。

 清宮芽依。この名前が今の彼女の名前。
芽依を養女として迎えた清宮夫妻には長年子どもがいなかった。

養子を迎えることを考えていた清宮夫妻は定期的にみどり園を訪れ、園で過ごす子ども達の中から自分達と家族になれる“運命の子ども”を探していた。
彼らにとっての運命の子どもが佐久間芽依だった。

 11歳の時に佐久間芽依は清宮家の養女となり、清宮芽依に生まれ変わった。10年前に10歳だった彼女は20歳になっている。

 長屋園長からは、くれぐれも芽依の現在の幸せを壊さないようにと念を押された。沙耶にしても昔一緒に遊んだ女の子が掴んだ幸せを邪魔するつもりはない。

でも誰も傷付けずに真実を追うなんて果たしてできるだろうか?
いや、それよりも誰かを傷付けてまで真実を追うべきなのか。

 真実の先に待つものが希望ではなく絶望ならばその真実は誰も幸せにしない。
誰も望まない真実を見つけたところで何になる?

 幼稚園とも小学校とも似て非なる場所に別れを告げて沙耶の車は走り出した。
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