【Guilty secret】
名刺には風見新社 社会部 西崎沙耶と書いてあった。
「風見新社、社会部……出版社の方ですか?」
「社会部の記者をしております」
沙耶はにこやかに微笑んだ。嘘臭い笑顔だった。
「記者の方がどうしてうちの学校に来て学生について調べるようなことを?」
「あなた学生さん? もしかして先生?」
「学部の4年です」
「そう。しっかりしてるわね。ここへは清宮芽依さんへの取材依頼に来ました」
「取材? 何の……」
「それはお答えできません。ただ清宮さんにお会いする前に今の彼女がどんな方なのか、少し気になって。恥ずかしがりやだったり神経質な方だと取材のアプローチも考えなければいけませんので。彼女の人となりをリサーチしていたの」
“今の彼女”の表現が気になったが、美月が口を開く前に松田が一歩前に出た。
『文芸や芸能などのカルチャー部門の方が大学生に取材するのならばまだわかりますが、社会部は事件や時事問題を扱う部署ではありませんか? そんな部署の記者が大学生に取材とはどういった趣旨の取材です?』
松田に詰め寄られた沙耶は心の中で舌打ちする。この二人はこれまで話しかけた学生と違って、なかなか鋭いところを斬り込んでくる。
そうそう大学生相手に負けていられない沙耶は反撃を試みた。
「先程も申しました通り、取材内容は清宮さん以外には明かせません。あなたが清宮さんの名前に反応したということは彼女のお知り合い?」
「清宮さんはサークルの後輩です」
「彼女とは親しい間柄?」
「取材の目的を話していただけるのなら、清宮さんのこともお話ししようと思いましたが、取材目的は明かせないんですよね?」
ボールペンを掴んでメモの準備をする沙耶を一瞥して美月は沙耶の名刺をバッグに入れた。同じ質問を繰り返す美月に苛立った沙耶の眉間にはかすかにシワが寄る。
「ええ、そうよ」
「では私から話すことは何もありません。これ以上、構内をうろつくようなら学校側に報告しますよ」
呆気にとられた沙耶を置いて美月は松田と共に並木道を歩いていった。無性に悔しくなった沙耶は二人を追いかけて呼び止めた。
「ちょっと待って。あなたはフェアを求める方のようだから言うけど、私はあなたに名刺を渡して身分を明かしました。でもあなたは学年を名乗っただけで私はあなたが誰か知らない。これはフェアではなくない?」
『それは屁理屈というものじゃ……』
「先輩。いいんです」
抗議する松田を美月が止める。物怖じしない堂々とした佇まいから感じる、他の学生とは一線を画すこの女子学生のことを沙耶はもっと知りたくなった。
「風見新社、社会部……出版社の方ですか?」
「社会部の記者をしております」
沙耶はにこやかに微笑んだ。嘘臭い笑顔だった。
「記者の方がどうしてうちの学校に来て学生について調べるようなことを?」
「あなた学生さん? もしかして先生?」
「学部の4年です」
「そう。しっかりしてるわね。ここへは清宮芽依さんへの取材依頼に来ました」
「取材? 何の……」
「それはお答えできません。ただ清宮さんにお会いする前に今の彼女がどんな方なのか、少し気になって。恥ずかしがりやだったり神経質な方だと取材のアプローチも考えなければいけませんので。彼女の人となりをリサーチしていたの」
“今の彼女”の表現が気になったが、美月が口を開く前に松田が一歩前に出た。
『文芸や芸能などのカルチャー部門の方が大学生に取材するのならばまだわかりますが、社会部は事件や時事問題を扱う部署ではありませんか? そんな部署の記者が大学生に取材とはどういった趣旨の取材です?』
松田に詰め寄られた沙耶は心の中で舌打ちする。この二人はこれまで話しかけた学生と違って、なかなか鋭いところを斬り込んでくる。
そうそう大学生相手に負けていられない沙耶は反撃を試みた。
「先程も申しました通り、取材内容は清宮さん以外には明かせません。あなたが清宮さんの名前に反応したということは彼女のお知り合い?」
「清宮さんはサークルの後輩です」
「彼女とは親しい間柄?」
「取材の目的を話していただけるのなら、清宮さんのこともお話ししようと思いましたが、取材目的は明かせないんですよね?」
ボールペンを掴んでメモの準備をする沙耶を一瞥して美月は沙耶の名刺をバッグに入れた。同じ質問を繰り返す美月に苛立った沙耶の眉間にはかすかにシワが寄る。
「ええ、そうよ」
「では私から話すことは何もありません。これ以上、構内をうろつくようなら学校側に報告しますよ」
呆気にとられた沙耶を置いて美月は松田と共に並木道を歩いていった。無性に悔しくなった沙耶は二人を追いかけて呼び止めた。
「ちょっと待って。あなたはフェアを求める方のようだから言うけど、私はあなたに名刺を渡して身分を明かしました。でもあなたは学年を名乗っただけで私はあなたが誰か知らない。これはフェアではなくない?」
『それは屁理屈というものじゃ……』
「先輩。いいんです」
抗議する松田を美月が止める。物怖じしない堂々とした佇まいから感じる、他の学生とは一線を画すこの女子学生のことを沙耶はもっと知りたくなった。