【Guilty secret】
「総合文化学部4年の浅丘美月です」
「アサオカミツキさん。ありがとう。引き留めてごめんなさい。今日のところは失礼しますね」

 メモに美月の名前を書いて沙耶は二人よりも先に大学を出た。大学の敷地をぐるりと囲む歩道の端に寄り、提げていた大きなバッグからタブレット端末を取り出した。

(アサオカミツキ……あの名簿にあったかな)

画面をタッチして起動したタブレットから目的のデータを閲覧する。表示されたデータは明鏡大学ミステリー研究会の今年の会員名簿。

 国井のツテで調べてもらった結果、清宮芽依は明鏡大学の総合文化学部に通っていることがわかった。所属サークルはミステリー研究会。

そして国井はさっそくミステリー研究会の名簿を入手してきた。彼がどのようにしてサークル名簿を入手してきたのかは触れない方がいいだろう。

 タブレットの画面をスクロールして画面を切り替える。ミステリー研究会所属学生の一覧から浅丘美月の名前をみつけた。
美月の横には前副会長の記載がある。

「副会長ねぇ。どうりでしっかり者の優等生って感じだったな。一番苦手なタイプ……」

沙耶は専用のタッチペンで画面の浅丘美月の名前に丸印をつけた。


        *

 明鏡大学を出た美月と松田は青山通りを歩いて宮益坂に向かう。松田の隣を歩く美月は浮かない表情だ。

『清宮って後輩のこと心配?』
「あまり人の事情に立ち入ってはいけないのはわかっているんですけど……。でも何か嫌な予感がするんです。芽依ちゃんに何も起きないといいなって」
『今まで散々危ないこと経験してきた人の勘?』
「危ないことって……! 確かに色々ありましたけど最近は何もありませんし……」

 2年前まで美月の周りは騒がしかった。高校時代は殺人事件に巻き込まれ、犯罪組織の人間と関わりを持ったりもした。

口を尖らせる美月の頭を松田は苦笑いしながら撫でた。

『ごめんごめん。拗ねるなよ。心配ならその後輩に記者が調べてるみたいだから気を付けろってさりげなく言っておきなよ』
「そうですね……。そうします」

 松田の微笑みにざわついていた心も和らぐ。恋人ではないけれど、松田が大切な存在であることに変わりはない。

生きていれば大切な存在は増え、守りたいものも増える。きっとそれが“生きる”ということなのだ。

 宮益坂に面したサンドイッチ専門店は注文の列は賑わっていても二階のイートインスペースは美月の予感が当たって空いていた。

(出版社……そうだ! あの人なら何かわかるかも)

 昼食時間を過ごす最中もちらつく西崎沙耶の残像。松田の言うようにカルチャー雑誌の記者が大学生に取材依頼をするのなら納得もいくが、西崎沙耶は社会部の記者だ。

沙耶の目的が気になる美月はある人物と連絡を取ることを心に決めた。
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