【Guilty secret】
 明鏡大学から風見新社に帰社した沙耶は国井副編集長に今日の成果の報告を上げる。

美月とひと悶着あった件は報告を躊躇《ためら》ったが、清宮芽依の先輩に浅丘美月という興味深い学生がいたことも念のため報告した。

国井は明らかに落胆した表情で沙耶の報告を聞いている。

『おいおい。大学生に巧くやり込められて引き下がってきたのかぁ?』
「申し訳ありません。ですがこれ以上は大学側からクレームが来ても困りますし……」
『ま、いい。バイト先がわかっただけでも収穫だ。これからはバイト先を攻めていけ』

 大学での聞き込みも一応の収穫はあった。清宮芽依は三軒茶屋のヒグマ書店でアルバイトをしている。

『あと……お前をやり込めたその学生、清宮芽依と同じミステリー研究会って言ったな? 名前は……』
「浅丘美月です。清宮芽依と同じ学部の4年で、ここに名前が。サークルを引退するまでは副会長をしていたようです」

沙耶はタブレット端末を国井に向けた。サークルの名簿の丸印をつけた美月の名前を彼女は指差す。

『この学生どんな風?』
「どんなって……物怖じしないと言うか度胸があると言うか、あの年頃にしてはしっかりしている印象で、少なくとも馬鹿ではないですね」
『そうじゃなくて見た目。顔だよ顔。美人? 可愛い? 普通以下?』

 国井はタブレットを突っ返してデスクに頬杖をつく。彼のデスクの前に立つ沙耶は冷めた目で国井を睨み付けた。
一度は男女の仲になったこの男に、二度と抱かれまいと強く誓う。

「見た目は今時の女子大生ですね。美人か可愛いか普通以下の三択なら美人系に該当するかと。あくまでも私見ですが」
『ほぉ。今時の美人女子大生ね。しかも馬鹿女じゃない、うん。悪くない』

何が悪くないのかは聞きたくもない。あの夜は流されたとは言え、何故この男と一夜の関係を持ってしまったのか、あの時の自分を殴り付けてやりたい。

 沙耶は国井に一礼して自分のデスクに戻った。沙耶が去った後、国井はパソコンの検索画面にあるワードを打ち込んだ。


〈明鏡大学 / 爆破 / 犯罪組織カオス〉


 国井が打ち込んだ検索ワードでヒットした関連記事は2年前の2009年12月のニュース記事がほとんどだ。パソコンに表示される記事を彼は口元を上げて斜め読みする。

これは面白い偶然だ。沙耶はとんでもないお宝を釣り上げてきた。そのことに彼女自身は気付いていない。

『出掛けてくる。戻りの時間はわからん。何かあればメールしてくれ』

 部下に言い残して国井は足早に社会部のフロアを出ていった。デスクで作業をしていた沙耶は、そわそわとした様子で出掛けた国井のことが少しだけ気がかりだった。
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