【Guilty secret】
 10年前の少女が“お兄ちゃん”に淡い初恋をしたことも、運命なのか宿命なのか呪いなのか。
10年前の佐久間芽依は“お兄ちゃん”が大好きだった。では10年後の清宮芽依が好きなのは誰?

『雛は初めて目にしたものを親だと思い込む。俺が好きだと思う感情はそれと同じようなものだ。恋でも愛でもない』
「わからない。でもそうだとしても好き」

 赤木は小さく溜息をついて乱暴に芽依の手をふりほどく。ここで彼女の好意を受け入れてしまえば10年前の約束は意味がなくなる。

『いい加減にしろ。子どもの恋愛ゴッコに俺を巻き込むな』

芽依の顔も見ずに赤木が部屋を出ていった。彼に置いていかれたのはこれで三度目だ。
一度目は10年前の約束の日、二度目は先週の日曜日、三度目が今日。

 止まらない涙が溢れてくる。
10年前は行かないでと言えば彼は側にいてくれた。あの約束をした日以外はいつも側にいてくれた。
だけどもう彼は側にいてくれない。

それが約束だから。
わかってるのに。だからサヨナラだってわかってるのに。

「恋なんてしなければよかった……」


        *

 芽依を置いて先にカラオケ店を出た赤木はスマホに同僚から着信が入っていることに気付いた。騒がしいカラオケの店舗では着信が鳴っていても気付けなかった。

同僚に折り返しの電話をするとクライアントから急なデザインの変更依頼が出たらしく、今から事務所に戻ってこれないか懇願された。

 カラオケに残してきた芽依が気掛かりだが今さら店には戻れない。芽依とは関わりを持ってはいけない。
それが自分にも芽依にも科してきた10年前の約束だ。

赤木はFireworksのオフィスの方向に足を進めた。
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