【Guilty secret】
 西崎沙耶は首都高速3号渋谷線の高架下から目の前のカラオケ店のビルを見張っていた。
高架下のスペースは駐輪場と横断歩道になっている。横断歩道を行き交う人々は駐輪場の手前で佇む沙耶を気にしつつも、素知らぬ顔で通り過ぎていった。

 ヒグマ書店のバイト終わりの芽依と別れた後、一度は帰宅を考えたが彼女はそのまま芽依の尾行を開始した。

空白の1週間を尋ねた時の芽依の敵意剥き出しの反応に、沙耶はみどり園の長屋園長と自分の仮説に確信を持った。

 芽依には誰か大切な人がいる。その人物は事件後1週間、芽依と時を過ごしていた。佐久間夫妻の殺人事件とも無関係ではないだろう。

芽依を張っていれば何かがわかる。その思いが沙耶を尾行の行動への突き動かした。
沙耶と別れた後、泣きながら歩く芽依の姿に心が痛まなかったわけではない。

 どんなに昔仲良く遊んだ女の子であっても嫌われたとしても、これが西崎沙耶の仕事だ。
つくづくジャーナリストは嫌な職業だと思う。

 三軒茶屋駅を目前にした場所で芽依とある男が接触した。遠目からでは人相までは見えなかったが、スーツを着た二十代から三十代のひょろりと背の高い男だ。

スーツを着ていてもサラリーマンには見えなかった。サラリーマンとは違う、強いて言うなら芸術家風とでも言うのか、男からは浮世離れした雰囲気が漂っていた。

 芽依と男は小声で何か言い争っている。雑踏の賑わいで二人の会話は聞こえない。
先を急ぐ男を芽依は引き留め、男は明らかに迷惑そうだった。

芽依に彼氏がいるとの情報は今のところ入っていない。20歳なら彼氏くらい居て当然だが、彼氏だったとしても芽依とは少しばかり年齢が離れているように思う。

 そのうち諦めた様子の男が芽依を連れて近くのカラオケ店に入った。沙耶は二人が店内に入る瞬間の写真を撮り、カラオケ店の目の前の高架下で二人を待つことにした。

「まさかあの状況で二人仲良くカラオケを楽しんでるってことはないよね?」

 誰に話すでもない独り言を呟く。国道を横切る横断歩道を渡る人々に怪訝な視線を向けられようと、沙耶はここから動かなかった。

 もしもカラオケともなれば、何時間ここで待てばいいかわからない。国井副編集長に指示を仰ごうにも、彼の携帯電話はさっきから留守番電話サービスに接続されて一向に繋がらない。

肝心な時にあの副編集長は何をしているのか。まさかまたどこかの女とお楽しみ中ということも、あの男なら有り得る。

(ラブホの前で見張るよりはマシだけどいつになったら出てくるのよ)

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