【Guilty secret】
 二人が入店して20分が経過する頃にカラオケ店から男が出てきた。芽依と一緒にいたあの男だ。男はひとりだった。

(芽依ちゃんがいない……どういうこと?)

このまま芽依を見張るか、男を尾行するか答えは明白だ。タイミングよく青信号に変わった横断歩道を渡って沙耶は男と同じ歩道に出る。

 夜の三軒茶屋で尾行対象者を見失わないよう追いかけることは想像以上に大変だ。芽依の尾行にも苦労したが、あの男はとにかく歩くのが速い。

身長が高く脚が長いので歩幅が広いと言ってもいい。一定の距離を空けて追いかけているとすぐに置いていかれてしまう。

長身のおかげで周りの人間よりも頭ひとつ抜けてる彼を人混みで見つけやすいことが幸いだった。

 男は人気《ひとけ》のない住宅街に入り、住宅街の一角に建つビルの中に消えた。若干の息切れをして沙耶は男が入ったビルを見上げる。
スタイリッシュな外観の四階建てのビルに掲げられた看板の英字を読み上げた。

「Fireworks……デザイン事務所?」

 人目につかない場所に移動してタブレット端末でFireworksの名前を入力する。検索からヒットした中にデザイン事務所 Fireworksのホームページがあった。

オフィスの住所は世田谷区三軒茶屋二丁目……このビルで間違いない。

 午後10時が近い。常識ある社会人がこんな時間に自社以外の会社を訪れることはしない。あの男はここの社員のようだ。

(待てよ? デザイン事務所……絵……?)

 みどり園の玄関に飾られた芽依の落ち葉の貼り絵は、小学生の創作物にしては精巧で完成度が高い。
芽依の創作力の裏にはプロの指導があったと考えると、あの頃の芽依には芸術関係の人間が側にいた可能性がある。

(絵と言えば小平って……)

 芽依の両親が殺害された現場となった東京都小平市は沙耶が生まれ育った地元だ。それなりの土地勘は働く。
沙耶の記憶では小平市には美術系の大学があった。
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