【Guilty secret】
 野良猫が沙耶の横を澄まし顔で通過した。周りに人の気配がないのを確認して、彼女はタブレットを抱えて膝を折った。

塀に背をつけてうずくまり、タブレットの検索画面で東京都の美術系大学の検索をかける。検索ワードに小平市も付け加えると結果は早かった。

 東京都小平市には日本美術大学がある。キャンパスは西武鉄道国分寺線の鷹の台駅の近くだ。

「日本美大……あの男はもしかしてここの大学の?」

男の年齢は30歳前後、10年前の年齢はちょうど大学生くらいだ。当時10歳で小平市在住の佐久間芽依と、あの男に接点があったとすれば芽依の絵のことも先ほどの二人の様子も辻褄が合う。

 暗闇の中でタブレットのブルーライトが眩しい。沙耶は日本美術大学のページを閉じてまたFireworksのページを開いた。

(せめて社員紹介のようなものがあればいいんだけど、そんな都合よくはいかないよな……)

Fireworksのホームページの企業理念や仕事内容を斜め読みしてページをスクロールさせるとStaffの欄を見つけた。

「あ……あったっ!」

 大きな声で歓喜しそうになるのを抑えて、Staffページを開く。Fireworksは有名な企業の広告やパッケージデザインを数多く手掛けている。

所属人数を見てもデザイン事務所として大手なのか中規模なのかは、畑違いの業界にいる沙耶にはわからない。

 スタッフの経歴には出身大学も掲載されていた。男性でなおかつ出身大学が日本美術大学である該当者は一名。


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 赤木奏/グラフィックデザイナー

 1979年6月27日 栃木県生まれ
 2002年 日本美術大学卒業
 2002年 Fireworks入社
 ______________


「2002年卒の日本美術大学……1979年生まれってことは今は32歳……」

 赤木奏は10年前の22歳の時に小平市の日本美術大学に在籍していた。

 タブレット端末をバッグに戻して立ち上がる。名前と職場がわかればこちらのものだ。
10年前の佐久間芽依、そして現在の清宮芽依と関係の深そうな赤木を調べてみる価値はある。
沙耶はFireworksのオフィスに背を向けて夜の闇に消えた。
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