【Guilty secret】
「なるほど。娘の話を聞き出したくて当時生活安全課にいた私のところに来たのね」
『そういうことです。娘は1週間行方不明になった後に自分で交番に駆け込み、保護された。そこからは生活安全課が彼女の面倒を見ていたんでしょう?』
「あの子が生活安全課にいたのは児童相談所に引き渡すまでの数日だけよ」
『その間に娘の事情聴取も行われたようですが娘は精神的ショックでASDと診断され、会話もほとんど筆談だったとか。娘はそんなに酷い精神状態だったんですか?』

ジャーナリストとして優秀な国井は抜け目のない人間だった。今もICレコーダーを隠し持って会話を録音しているかもしれない。

 マスコミ、特にこの男には迂闊に情報は与えられない。真紀は慎重に言葉を選ぶ。

「健康状態に問題はなかったけど、誰とも口を利かなかった。生活安全課で保護している時も黙々と学校の宿題をしたりしていたわ」
『ほぉ。宿題ねぇ。……現在の娘のことも調べましたよ。施設から里親に貰われ養子縁組をしたそうで、名前は佐久間芽依から清宮芽依となっています』
「養子縁組の話は聞いてる。国井さん。特集で何をやるかはそちらの自由ですが、無神経に被害者遺族の心とプライバシーを傷付けることのないように。失礼します」
『ああっ! ちょっと小山さーん。まだ話には続きがあるんです』

 国井に引き留められた真紀の形相が怒りに歪む。

「続きぃ? あのね、何度も言うけど私も暇じゃないのよ」
『あと少しで終わります。娘の清宮芽依は今はハタチ、大学生になっています。彼女がどこの大学に通っていると思います?』
「なんでもいいから、その思わせ振りな言い方止めて」
『はいはい。清宮芽依が通っている大学は、なんとあの明鏡大学なんですよねー。しかも“浅丘美月”と同じ学部、同じサークルの先輩後輩でした』

真紀は国井の真の狙いが読めた。

「そういうことか。未解決事件の特集とか言っておきながら、本当に私から聞き出したかったのは浅丘美月のことね」
『事件の話も勿論ありますが、はい、仰る通りで。小山さんは浅丘美月と面識がありますよね。2年前の明鏡大学准教授の殺人事件も5年前の静岡の連続殺人事件も、浅丘美月が関わった事件の捜査担当には小山さんがいました』

 2年前の事件はまだわかるが、5年前の静岡の殺人事件まで国井は引き合いに出してきた。確かにどちらの事件にも真紀は捜査で関わっている。
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