【Guilty secret】
『浅丘美月は一般人ですので公には名前は伏せられていますが、我々ジャーナリストの間で彼女はある意味有名人です。浅丘美月は犯罪組織カオスのキング、貴嶋佑聖のお気に入りの女ですからね。彼女は実は貴嶋の愛人なんじゃないかって噂もありますよ』

 それは真紀にとって不愉快極まりない話だ。浅丘美月が貴嶋の愛人なんてこと有り得ない。

どこをどう情報操作すれば、そんなくだらない事が言えるのか。火のないところにも煙を立たせる人種がマスコミだ。

「浅丘美月はカオスとは何の関係もない」
『俺の情報網を甘く見ないでほしいな。2年前の貴嶋が逮捕される直前に貴嶋と浅丘美月は接触していた。貴嶋の逮捕とカオス壊滅から2年になりますが、貴嶋やカオスのことは大雑把なさわりだけで詳しい情報は世間に公表されないままだ。報道の人間として遺憾でなりません。俺には真実を国民に伝える義務があり、国民には真実を知る権利がある。違いますか?』

 報道の人間だけあって国井は口が上手い。だがジャーナリストの国井が伝える義務があり、国民が知る権利があるのなら、警察官の真紀には守る義務がある。

守秘義務。警察官としての立場を守り情報漏洩を防ぐだけでなく、事件関係者のプライバシーを守る義務でもあると真紀は心得ている。

 浅丘美月のプライバシーは誰にも侵されてはならない。彼女は誰にも傷付けさせない。

「私が言えることはひとつ。浅丘美月はカオスとは無関係です。それとこれ、お返しします」

茶菓子の紙袋を国井に戻して真紀は踵を返す。こんな男からの懐妊祝いは欲しくもない。

『元気な赤ちゃん産んでくださいね。矢野真紀さん』

 含み笑いを浮かべて国井は真紀の本名をフルネームで囁いた。真紀は振り返らずにそのままエレベーターに乗り込んだ。
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