【Guilty secret】
16.事件現場
 夜中に吹き荒んでいた嵐は止み、今朝は穏やかな晴れ間が広がっていた。午前10時、東京都小平市の住宅街の一角で車が停車する。

『住所はこの辺りだぞ』

 運転席に座る矢野一輝は車のナビに表示された住所と現在地を確認する。助手席の小山真紀は、倉持警部から預かった捜査資料とナビの住所を見比べた。

「この辺りで間違いない。10年前の事件の後、佐久間家は取り壊されて土地も売りに出されてる」
『殺人があった家には、どれだけ安売りしていても住みたいと思う物好きいないからな』
「犯行現場は残ってないから現場を見ることはできないけど、当時ここに住んでいた人の顔ぶれはそこまで変わっていないと思う。その人達から当時の話は聞ける」
『よし。聞き込み開始だ』

矢野と真紀は車外に出た。真紀はスーツの下に隠れた膨らみを撫でる。

「刑事でもない一輝に手伝わせちゃってごめんね。正式な再捜査じゃないから特命はまだ動かせないって言われて……」

 本来は未解決事件の捜査担当は捜査一課に設置されている特命捜査対策室所属の刑事が行う。同じ殺人事件でも、現在進行形で発生している事件を担当する強行犯捜査係所属の真紀に未解決事件の捜査権限はない。

今回の捜査は特命捜査対策室所属の倉持警部からの個人的な依頼だ。

『何言ってんだよ。上野警部からも直々に協力要請もらってるし、今の真紀に無理は禁物。ひとりで捜査してて何かあったらって気が気じゃないから、喜んで小山刑事のお手伝いしますよ。俺は真紀とコイツのためならなんでもできるの』

 矢野は下腹部に置かれた真紀の手の上に自分の手を重ねた。ここには二人の大切な宝物が宿っている。
新しい家族が増える喜びを、真紀も矢野も日々感じていた。

 二人は、事件現場となった佐久間社長宅の周辺に10年前当時も住んでいた住民に話を聞いて回った。
捜査記録にある居住者の名前と現在の居住者が異なる家もあるが、古い家が建ち並ぶ一帯の住民の顔ぶれは当時とさほど変わりはなかった。

10年前に小平警察署の生活安全課の刑事としてこの付近を担当していた頃の記憶が甦る。
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