【Guilty secret】
『金銭的に不自由なく娘も成績優秀で礼儀正しく育ち、休日はローンなしのマイホームでホームパーティー。はぁー……確かに絵に描いたようなセレブ家族だな。どこか嘘臭せぇ』

 ホームドラマで描かれる理想の家族像が出来すぎている。正装して写真館で撮られた家族写真に写る佐久間夫妻の笑顔も、芽依の子どもらしくない澄まし顔も、偽りの仮面のような違和感があった。

『強盗の線も消えてないんだろ?』
「うん。佐久間夫妻の財布からは現金が抜き取られていた。でも寝室にあった妻のアクセサリーや夫のブランド物の腕時計の類いには手をつけられていなかった。わざと現金を抜き取って強盗の仕業に見せ掛けたって見方が濃厚」

 次の訪問先は10年前に町内会の会長をしていた70代の男性の家だ。佐久間晋一とは囲碁と将棋の仲間で親しくしていた。

気難しそうな風貌の老人は矢野が将棋の話題を持ち出すと饒舌になり、気をよくした彼は晋一の人となりを語った。


 ──『晋一くんは生真面目ないい人でしたよ。ご近所とのトラブル? いやいや、そんなものなかったよ。あー……だけどあの人は子どもが嫌いだったのかもねぇ。晋一くんのお宅があった場所、公園の近くでしょう? 日曜日ともなれば、公園に近所の子達が集まってあの辺りは賑やかなんですよ。私は子どもが元気に外で遊ぶのは良いことだと思うんですが、晋一くんは違ったんだなぁ。子どもの声が煩くてたまらないってボヤいてた。公園の近くに家を建てたのは晋一くんなのに、公園で遊ぶ子どもの声に神経質になるとは、随分と勝手だと思ったものですよ』


 ──芽依の父親としての晋一はどんな風だったか?

 ──『社長さんで多忙だったから、芽依ちゃんと一緒にいるところは見たことないね。お子さんも二人目は考えないのかと聞くと、“うちはひとりで充分”と言っていたよ。やはり子どもは好きではなかったんだろうね』


佐久間晋一の子ども嫌いの証言は10年前には出ていない。初めての証言だ。
母親の聡子が教育熱心なのに対して父親の晋一は子ども嫌い……。

 町内会元会長の家を出た二人は一度車に戻った。

『晋一と聡子、佐久間一家は絵に描いたような理想家族ではないのかもな』
「私もそう思う。被害者のことは10年前の証言と今の証言だけでしか想像できないけど、住民が語る佐久間夫妻の話の中に“幸せ”が見えないのよね。娘の芽依もそう。彼女がどんな小学生だったのか全く見えてこない」

 真紀は厚手のブランケットを腹部にかけてシートにもたれた。妊娠してからの久々の捜査活動で少し疲れが出てきた。

『ちょっと休もう。すぐそこにスーパーあるから何か買ってくる』
「ありがとう」

 矢野が車を降り、車内に残った真紀は捜査資料のページをめくった。
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