【Guilty secret】
17.紅雨
 犯行現場のリビングや佐久間邸の庭からは27㎝の真新しい靴跡が発見された。被害者の晋一の足のサイズは26㎝、聡子は22㎝。

27㎝の足跡は佐久間夫妻のものではない。

 庭の足跡はキッチンの勝手口に続いていた。勝手口の鍵は壊された形跡はなく、事件当時に鍵は開いていたと考えられる。
佐久間夫妻を殺害した犯人は鍵の開いている勝手口から室内に侵入して殺人を行った。

(どうして勝手口の鍵がかかっていないことを犯人が知り得たの? 鍵がかかっていれば無理やり侵入するつもりだった……?)

強盗殺人の線が薄い理由は現金以外の金目の物が盗まれていなかったことに加えて、この勝手口の鍵の問題も挙げられていたからだ。

 そして現場に残された遺留物。血に染まるカーペットの繊維の隙間に毛髪が残っていた。
毛髪の血液型はAB型。

晋一はO型、聡子と娘の芽依はA型。佐久間家の人間の物ではないとすると犯人の毛髪である可能性が高い。

 現場にはもうひとつ遺留物があった。血の海のカーペットの唯一血が付着していない箇所、佐久間芽依の赤い手形が残されていた付近から涙の成分が検出された。

両親が殺される瞬間を見て芽依が流した涙だと推測され、この涙の遺留物は毛髪よりは重要視されていなかった。

 事件発生日は木曜日の16時頃。会社経営で多忙な晋一が平日の夕刻に在宅していた理由は風邪気味で会社には出社せず、自宅で仕事をしていたからだった。

晋一の体調不良は社員の証言やその日にかかった病院の診断書もあり、裏付けもできている。
妻の聡子は専業主婦、芽依は小学校から帰宅したばかり。

 “たまたま”勝手口の鍵が開いていて“たまたま”犯人(通りすがりの強盗?)が押し入り、“たまたま”体調不良で自宅にいた晋一と聡子が殺され、居合わせた芽依は“たまたま”殺されずに犯人に連れ去られた?

犯人はどうしてその場にいた芽依を殺さなかった?

 芽依は犯行を目撃した目撃者だ。犯人にとって芽依が証言をすれば身元が特定される恐れもある。

 芽依が“たまたま”ASD(急性ストレス障害)と診断され、誰とも口を利けなくなっていたために犯人の割り出しができずに10年が経過する。

裏を返せば、当時の芽依が犯人の人相や逮捕に繋がる重要な証言を警察にしていれば犯人はとっくに逮捕されていたかもしれない。

 10歳の芽依さえ協力的だったら……。

 真紀は10年前に接触した無言の少女の顔を思い出す。心と口を閉ざした表情のない、人形のような子どもだった。

(芽依は本当にASDだったのか?)

突如沸き上がる疑念。“両親を殺された可哀想な子ども”、当時の捜査関係者の芽依を見る目には明らかに先入観があった。

 その先入観を一度取り除いて見ると、今まで見えていなかったものが見えてくる。
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