【Guilty secret】
18.仮面の下も仮面
小学校の前で車が停まる。ここからは真紀がひとりで出向き、矢野は車で待機となった。
担任教師へのアポイントメントは入れてあったので、真紀は職員室の隣の来客用の応接室に通された。
ソファーに座って数分待っていると、朝井という名の四十代の女性教師が応接室に入ってきた。
「佐久間芽依ちゃんのことはよく覚えています。私が担任した生徒で何かの事件に巻き込まれた子は芽依ちゃんだけですので、特に印象深くて。これは私の手元にあったあの頃の芽依ちゃんの写真です」
朝井は持参した写真を真紀に渡す。芽依が小学4年の遠足や写生大会、社会科見学の写真だった。
写真の中の10歳の芽依は肩までのボブヘアの少女だ。真紀の知る佐久間芽依は虚ろな目をした無口な少女だったが、事件前の芽依とそれほど違いはないように思う。
元々、無口で笑わない少女だったのだろう。
「ここに来る前に芽依ちゃんと同じクラスだった川本未紀さんのお宅に伺ってお話を聞いてきました」
「川本未紀ちゃん? ええ、彼女のことも覚えていますよ」
「川本さんから芽依ちゃんは絵が上手だったと聞きました」
「そうなんです。お世辞ではなく本当に芽依ちゃんの絵は凄いんです。教師の間でも話題になっていました。ちょうどこの写真の……これですね。写生大会で芽依ちゃんが優勝した時に絵と一緒に撮りました」
朝井が選んだ写真には額に入る絵を持った芽依が写っている。ピントは芽依に合っているが、絵も目視は可能だった。
芽依が描いた絵は春の学校の庭を繊細なタッチで表現した水彩画。庭に咲くチューリップも細部まで丁寧に描写され、色の絶妙な濃淡で見事に春の庭が描かれている。
「確かにこの絵を小学生が描いたとは信じられませんね。私は絵には詳しくはありませんが、上手い下手のレベルを越えているような……」
「ええ、もう芸術の域です。でも芽依ちゃんは絵画教室には通っていなかったんです。一体どこで絵の描き方を覚えたのか不思議で。芽依ちゃんが3年生の時の担任の先生が仰っていましたが、芽依ちゃんの図工の成績が上がったのは3年生の秋頃なんです」
「3年生の秋頃……」
佐久間夫妻が殺される1年前だ。朝井教諭は急に落ち着きなくなって組んだ手を擦り始めた。
担任教師へのアポイントメントは入れてあったので、真紀は職員室の隣の来客用の応接室に通された。
ソファーに座って数分待っていると、朝井という名の四十代の女性教師が応接室に入ってきた。
「佐久間芽依ちゃんのことはよく覚えています。私が担任した生徒で何かの事件に巻き込まれた子は芽依ちゃんだけですので、特に印象深くて。これは私の手元にあったあの頃の芽依ちゃんの写真です」
朝井は持参した写真を真紀に渡す。芽依が小学4年の遠足や写生大会、社会科見学の写真だった。
写真の中の10歳の芽依は肩までのボブヘアの少女だ。真紀の知る佐久間芽依は虚ろな目をした無口な少女だったが、事件前の芽依とそれほど違いはないように思う。
元々、無口で笑わない少女だったのだろう。
「ここに来る前に芽依ちゃんと同じクラスだった川本未紀さんのお宅に伺ってお話を聞いてきました」
「川本未紀ちゃん? ええ、彼女のことも覚えていますよ」
「川本さんから芽依ちゃんは絵が上手だったと聞きました」
「そうなんです。お世辞ではなく本当に芽依ちゃんの絵は凄いんです。教師の間でも話題になっていました。ちょうどこの写真の……これですね。写生大会で芽依ちゃんが優勝した時に絵と一緒に撮りました」
朝井が選んだ写真には額に入る絵を持った芽依が写っている。ピントは芽依に合っているが、絵も目視は可能だった。
芽依が描いた絵は春の学校の庭を繊細なタッチで表現した水彩画。庭に咲くチューリップも細部まで丁寧に描写され、色の絶妙な濃淡で見事に春の庭が描かれている。
「確かにこの絵を小学生が描いたとは信じられませんね。私は絵には詳しくはありませんが、上手い下手のレベルを越えているような……」
「ええ、もう芸術の域です。でも芽依ちゃんは絵画教室には通っていなかったんです。一体どこで絵の描き方を覚えたのか不思議で。芽依ちゃんが3年生の時の担任の先生が仰っていましたが、芽依ちゃんの図工の成績が上がったのは3年生の秋頃なんです」
「3年生の秋頃……」
佐久間夫妻が殺される1年前だ。朝井教諭は急に落ち着きなくなって組んだ手を擦り始めた。