【Guilty secret】
「当時は思いもしなかった結論なんです。でもそう考えると、勝手口の鍵がその日の犯行時刻に開いていたことも、子ども用雨ガッパがないことも納得がいく気がします」
『佐久間芽依が勝手口の鍵を開けて犯人を招き入れた。つまり芽依には共犯者がいる。共犯者が実行犯かは今はまだ置いておくとして、小山の結論だと芽依も犯行に加担した加害者になる』
「そうなりますよね。10歳の子どもが犯人だなんて考えたくはなかったんです」
だから気が滅入ってたまらなくなった。真紀の隣にいる矢野が口を開く。
『だけど動機は? 10歳の娘が親を殺したくなる動機って想像つかないなぁ。親が嫌いでも、共犯者使ってまで殺そうとするか?』
「動機は私にもわからない。母親の聡子は教育熱心でしつけも厳しかったみたいだけど。父親は子ども嫌いで芽依には無関心だったのかも」
矢野と真紀が犯行動機を考え込む最中、捜査資料を眺めていた早河が小声で呟いた。
『……ネグレクト』
彼の呟きは矢野と真紀にも聞こえていて、二人の顔が瞬時にひきつる。
『聡子の育児放棄の可能性は?』
「育児放棄……? だけど聡子は教育熱心な母親だって証言が……」
『一方で気性が荒く気分屋との証言もあったんだよな?』
早河の指摘に真紀は反論できなかった。
『俺は専門家じゃない。どんな人間が、どんな理由で育児放棄をするのかも知らない。ただ、誰にでもその可能性を秘めてるものだろう。真愛が可愛くてたまらないって言ってるなぎさだって、真愛の夜泣きに悩まされて、なぎさも一緒に泣き出してる時もあるんだ。産んだ子どもと言っても結局は自分とは違う他人をゼロから育てるんだよ。人を育てることは簡単じゃない』
父親となった早河だからこそ言える言葉だ。
真紀は腹部の膨らみに触れた。自分もここに宿る我が子が産まれた時、絶対にネグレクトをしないとは言い切れない。
何がきっかけで育児放棄をしてしまうか、誰にもわからない。
『でもどれだけ育児が大変でもネグレクトは親の都合に過ぎない。子どもに罪はないし、子どもにとって良い家庭環境でもない。聡子がネグレクトをしていたとしても家庭内の出来事だ。父親も殺されている今、ネグレクトを証明する手立ては芽依の証言しかない』
「芽依が犯行に関与しているなら動機に関係することです。話してはくれないでしょうね」
『話さないだろうな。芽依が両親殺害を企てたと仮定すると、気になるのは共犯者だ。27㎝のゲソ痕の持ち主が誰か』
早河は捜査資料の足跡のページを開いた。
『27㎝は一般的には男の足跡だと考えられる。捜査線上にそれらしい男は浮かんでこなかったんだよな?』
「ええ。晋一の会社の社員に27㎝の足の男が数人いましたが、アリバイがあることや、そもそも晋一を殺す動機が見当たらずに容疑者からは外れています」
捜査資料には足跡の該当者は不明と記載されている。早河は顔の見えない足跡の主の人物像を思い浮かべた。
『芽依も加害者側だとした時に、この犯行は芽依の協力がなければ成立しない。事件当時、10歳の芽依と親しかった男がどこかにいる。芽依の周りでそういう存在の男はいなかったか?』
「晋一も聡子も兄弟はいないので、芽依に親戚のおじさんはいないはずです。芽依が遊ぶ相手は学校や塾の友達か、近所に住む高校生だった西崎沙耶くらいだったと聞いていますが……」
真紀はしばし黙考する。小学生の芽依と親しくしていた男。事件の核心がその男にあることは間違いない。
『佐久間芽依が勝手口の鍵を開けて犯人を招き入れた。つまり芽依には共犯者がいる。共犯者が実行犯かは今はまだ置いておくとして、小山の結論だと芽依も犯行に加担した加害者になる』
「そうなりますよね。10歳の子どもが犯人だなんて考えたくはなかったんです」
だから気が滅入ってたまらなくなった。真紀の隣にいる矢野が口を開く。
『だけど動機は? 10歳の娘が親を殺したくなる動機って想像つかないなぁ。親が嫌いでも、共犯者使ってまで殺そうとするか?』
「動機は私にもわからない。母親の聡子は教育熱心でしつけも厳しかったみたいだけど。父親は子ども嫌いで芽依には無関心だったのかも」
矢野と真紀が犯行動機を考え込む最中、捜査資料を眺めていた早河が小声で呟いた。
『……ネグレクト』
彼の呟きは矢野と真紀にも聞こえていて、二人の顔が瞬時にひきつる。
『聡子の育児放棄の可能性は?』
「育児放棄……? だけど聡子は教育熱心な母親だって証言が……」
『一方で気性が荒く気分屋との証言もあったんだよな?』
早河の指摘に真紀は反論できなかった。
『俺は専門家じゃない。どんな人間が、どんな理由で育児放棄をするのかも知らない。ただ、誰にでもその可能性を秘めてるものだろう。真愛が可愛くてたまらないって言ってるなぎさだって、真愛の夜泣きに悩まされて、なぎさも一緒に泣き出してる時もあるんだ。産んだ子どもと言っても結局は自分とは違う他人をゼロから育てるんだよ。人を育てることは簡単じゃない』
父親となった早河だからこそ言える言葉だ。
真紀は腹部の膨らみに触れた。自分もここに宿る我が子が産まれた時、絶対にネグレクトをしないとは言い切れない。
何がきっかけで育児放棄をしてしまうか、誰にもわからない。
『でもどれだけ育児が大変でもネグレクトは親の都合に過ぎない。子どもに罪はないし、子どもにとって良い家庭環境でもない。聡子がネグレクトをしていたとしても家庭内の出来事だ。父親も殺されている今、ネグレクトを証明する手立ては芽依の証言しかない』
「芽依が犯行に関与しているなら動機に関係することです。話してはくれないでしょうね」
『話さないだろうな。芽依が両親殺害を企てたと仮定すると、気になるのは共犯者だ。27㎝のゲソ痕の持ち主が誰か』
早河は捜査資料の足跡のページを開いた。
『27㎝は一般的には男の足跡だと考えられる。捜査線上にそれらしい男は浮かんでこなかったんだよな?』
「ええ。晋一の会社の社員に27㎝の足の男が数人いましたが、アリバイがあることや、そもそも晋一を殺す動機が見当たらずに容疑者からは外れています」
捜査資料には足跡の該当者は不明と記載されている。早河は顔の見えない足跡の主の人物像を思い浮かべた。
『芽依も加害者側だとした時に、この犯行は芽依の協力がなければ成立しない。事件当時、10歳の芽依と親しかった男がどこかにいる。芽依の周りでそういう存在の男はいなかったか?』
「晋一も聡子も兄弟はいないので、芽依に親戚のおじさんはいないはずです。芽依が遊ぶ相手は学校や塾の友達か、近所に住む高校生だった西崎沙耶くらいだったと聞いていますが……」
真紀はしばし黙考する。小学生の芽依と親しくしていた男。事件の核心がその男にあることは間違いない。