【Guilty secret】
 息苦しさと赤木に会えた嬉しさが相まって芽依の目には涙が滲んでいる。

「知らないフリしろって言ったのは赤木さんなのに……自分から約束破って」
『……そうだな』

自分で言ったことも自分で守れないのかと、彼は自嘲して笑った。

『何があった?』
「わからない。でも急に赤い夢が……」
『赤い夢?』
「何度も見る怖い夢。赤い水溜まりにふたつの人形が沈んでるの。それが……死んだ両親の顔で……私は両親が死ぬ瞬間を見ているの」
『芽依』

 赤木の手が芽依の頬に触れる。甲に火傷の痕が残る手で優しく優しく、彼は芽依の頬を撫でた。

『それ以上思い出すな。お前にとって必要ない記憶だ』
「必要ない? 私は何を忘れてるの? 赤木さんは私が忘れている何かを知っているの?」

赤木は答えない。芽依の頬を撫でていた大きな手で赤木は彼女の手を握った。

『とにかく今はここから離れよう。行くぞ』
「でもどこに……?」

 手を繋いで二人は三軒茶屋駅前に出る。駅前で拾ったタクシーに乗り込んで、芽依と赤木は三軒茶屋の街に別れを告げた。

座席に座る芽依を赤木が抱き寄せる。彼の身体に寄り添って芽依は目を閉じた。
聞こえる物音は車の走行音と赤木の息遣いのみ。

 これからどこに向かうのか、彼は何も言わなかった。タクシーの運転手にはスマートフォンで行き先の位置情報を見せていたようだが、それがどこなのか芽依にはわからない。

 日が暮れて闇の時間がやって来る。バイトもなく、本来ならとっくに帰宅しているはずの芽依のことを清宮の両親は心配しているだろう。

あの時は呼吸が止まりそうに苦しくて携帯電話を見る余裕もなかった。帰りが遅くなるなら母に連絡しなければと、わずかに働いた思考も赤木のぬくもりに触れる喜びには負けてしまう。

 このままずっと一緒にいたい。
10年前の楽しかったあの1週間のように。ずっと、一緒に。
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