【Guilty secret】
22.愛の代替
 やがてタクシーが暗闇の住宅街で停車した。マンションが建ち並ぶ一帯で二人はタクシーを降りる。
そびえるのは近代的な外観のマンション。赤木に手を引かれてオートロックを通過した芽依はエレベーターで八階に上がった。

「赤木さん、ここって……」
『俺の家』

八階の804号室の鍵を開けて彼は扉を開けた。

『そんな状態でひとりで家に帰れないだろ。しばらくここで休んでいけ』

 招かれた赤木の自宅に芽依は恐る恐る足を踏み入れた。雑多な物のないシンプルなワンルームに懐かしさを感じる。

「相変わらず赤木さんの家は物が少ないですね。10年前とおんなじ」
『あのボロアパートよりは部屋のランクは上がったけどな』

冷蔵庫を覗き見た赤木は舌打ちして芽依を見る。彼女はソファーの端に行儀よく座っていた。

『そこのコンビニで買い物してくる。寝たかったらベッド使ってもいいし、自由にしていろ』
「はい。……あの、ちゃんと……帰って来てくれますか?」
『当たり前だ。ここは俺の家だぞ』
「そうですよね……」

怯えた子どものような瞳をする芽依の隣に赤木は腰掛けた。芽依の頭を抱き込んで額に口付けする。

『安心しろ。ちゃんと帰って来る』

 赤木の優しい声に誘われて芽依の想いが溢れ出す。止まらない、止められない、聞いて、届いて、この想い。

「好き。赤木さんが好き」

芽依が想いを伝えた時に赤木の顔が苦しげに歪んだ。彼の苦しみの理由は何?

「ずっと人を好きになることが怖かった。今でも怖い。でも……赤木さんが好き」

頬を染めて潤んだ瞳、火照る頬と同じ色をした赤色の唇。
彼女は10歳の少女ではなく、20歳の女の顔をしていた。

「もう守ってくれなくていい。ただ側にいてほしい。もし私の存在が赤木さんを苦しめているのなら、今日だけでいいから……今日だけは赤木さんを好きでいさせてください……」
『芽依。俺は……』

 言いかけた言葉を飲み込んで、飲み込んだ言葉の代わりに彼は芽依の赤い唇に自分の唇を押し付けた。
言えない言葉の代わりにこれが答えだと証明するキスを彼女に送る。
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