【Guilty secret】
芽依にとって初めてのキスだった。さっきの呼吸ができない苦しさとは違う感覚の、甘い苦しさに翻弄され、侵食される。
『忘れろ、全部。全部忘れてしまえ』
キスの合間に紡がれる赤木の言葉は魔法の呪文。10年前も彼の呪文で記憶を封じた。
『芽依は何も知らなくていい。何も思い出さなくていい』
芽依が知らなくて赤木が知っていること。
芽依が忘れていて赤木が覚えていること。
封印された芽依の赤い記憶。開きかけた記憶の扉に彼はまた鍵をかける。
「怖い。怖いよぉ……赤い水溜まりがあって、そこにあの人達が沈んでるの。ギロッとした目で私を睨んでいて……」
『大丈夫。全部、忘れさせてやる』
震える芽依の身体を抱き締めて魔法の呪文を囁き続ける。
──君は何も思い出さなくていいんだよ。君はこの世でたったひとり、自分と共鳴できる存在だから……。
キスをして抱き合ってベッドに倒れる。首筋や鎖骨に感じるくすぐったくて甘い感触に、芽依の心臓が跳ね上がった。
赤木の温かな手が素肌に触れる。衣擦れの音とベッドが軋む音がして、赤木の吐息が肌を滑った。
赤い記憶を消し去るように、芽依は赤木に身を委ねて夢中になる。男を知らない芽依の、すべてが初めての夜だった。
これは何のための行為なのか、そんなこと赤木にもわからない。
愛のため? 芽依を落ち着かせるため?
それともこれは呪いの儀式?
愛なのか、介抱なのか、呪いなのか。もしかすると単なる男の欲望かもしれない。
『忘れろ、芽依。全部忘れろ』
芽依とひとつになる瞬間も愛の言葉を囁く代わりに彼は呪文を繰り返す。淫らに腰を揺らす赤木と繋がれた芽依の手は、昔繋いだ彼女の手よりも大きくなっていた。
「っ、あっ……! 赤木……さん……、んっ、ぁあっ……!」
芽依はもうあの頃の小学生ではない。大人の女だ。
甘ったるい喘ぎ声も、キスで絡まる舌先も、ふっくらと柔らかな胸も、触れば濡れる蜜壺も、身体は完全なる女だ。
今の自分達は裸で交わるただの男と女に成り下がった。
『芽依……芽依……』
ひたすら彼女の名前を囁いて絶頂までの時を刻む。
愛しているとは言えなかった。そんな資格がないことは彼自身が知っている。
これは愛でもあり介抱でもあり、男の欲望でもある、“愛している”の言葉の代わりの二人の儀式だった。
*
赤い夢を見た。いつも見る赤い水溜まりにふたつの人形が横たわる悪夢ではなく、夢の中の芽依は真っ赤な落ち葉のベッドに沈んでいる。
ふかふかの落ち葉の上で彼女は鳥のさえずりに耳を傾けた。金木犀の匂いを含んだ柔らかな秋の風が心地よく吹いて、ここはまるで童話の桃源郷。
芽依、と耳元で囁かれた。隣では芽依と同じく赤いベッドに寝そべる赤木奏が彼女の髪を撫でている。
身を寄せ合う二人は唇を重ねた。
優しくて穏やかな時間が流れる赤の世界であの物悲しい童謡のメロディが流れた──。
『忘れろ、全部。全部忘れてしまえ』
キスの合間に紡がれる赤木の言葉は魔法の呪文。10年前も彼の呪文で記憶を封じた。
『芽依は何も知らなくていい。何も思い出さなくていい』
芽依が知らなくて赤木が知っていること。
芽依が忘れていて赤木が覚えていること。
封印された芽依の赤い記憶。開きかけた記憶の扉に彼はまた鍵をかける。
「怖い。怖いよぉ……赤い水溜まりがあって、そこにあの人達が沈んでるの。ギロッとした目で私を睨んでいて……」
『大丈夫。全部、忘れさせてやる』
震える芽依の身体を抱き締めて魔法の呪文を囁き続ける。
──君は何も思い出さなくていいんだよ。君はこの世でたったひとり、自分と共鳴できる存在だから……。
キスをして抱き合ってベッドに倒れる。首筋や鎖骨に感じるくすぐったくて甘い感触に、芽依の心臓が跳ね上がった。
赤木の温かな手が素肌に触れる。衣擦れの音とベッドが軋む音がして、赤木の吐息が肌を滑った。
赤い記憶を消し去るように、芽依は赤木に身を委ねて夢中になる。男を知らない芽依の、すべてが初めての夜だった。
これは何のための行為なのか、そんなこと赤木にもわからない。
愛のため? 芽依を落ち着かせるため?
それともこれは呪いの儀式?
愛なのか、介抱なのか、呪いなのか。もしかすると単なる男の欲望かもしれない。
『忘れろ、芽依。全部忘れろ』
芽依とひとつになる瞬間も愛の言葉を囁く代わりに彼は呪文を繰り返す。淫らに腰を揺らす赤木と繋がれた芽依の手は、昔繋いだ彼女の手よりも大きくなっていた。
「っ、あっ……! 赤木……さん……、んっ、ぁあっ……!」
芽依はもうあの頃の小学生ではない。大人の女だ。
甘ったるい喘ぎ声も、キスで絡まる舌先も、ふっくらと柔らかな胸も、触れば濡れる蜜壺も、身体は完全なる女だ。
今の自分達は裸で交わるただの男と女に成り下がった。
『芽依……芽依……』
ひたすら彼女の名前を囁いて絶頂までの時を刻む。
愛しているとは言えなかった。そんな資格がないことは彼自身が知っている。
これは愛でもあり介抱でもあり、男の欲望でもある、“愛している”の言葉の代わりの二人の儀式だった。
*
赤い夢を見た。いつも見る赤い水溜まりにふたつの人形が横たわる悪夢ではなく、夢の中の芽依は真っ赤な落ち葉のベッドに沈んでいる。
ふかふかの落ち葉の上で彼女は鳥のさえずりに耳を傾けた。金木犀の匂いを含んだ柔らかな秋の風が心地よく吹いて、ここはまるで童話の桃源郷。
芽依、と耳元で囁かれた。隣では芽依と同じく赤いベッドに寝そべる赤木奏が彼女の髪を撫でている。
身を寄せ合う二人は唇を重ねた。
優しくて穏やかな時間が流れる赤の世界であの物悲しい童謡のメロディが流れた──。