【Guilty secret】
今夜もあの夢を見た。
赤い吹雪 ゆっくりじんわり広がって水溜まりになる
見下ろす先には動かないふたつの人形
ゼンマイの切れた人形
物悲しいメロディをふたりで口ずさんで歩く帰り道
温かい手のぬくもりを今も覚えている
握り締めた手。その手の甲には大きな火傷の痕……
*
10月8日(Sat)午前6時
まだベッドにいたい衝動と戦い、芽依は起き上がった。
今日は10時から本屋のバイトだ。バイトの後は小池と映画を観に行く約束がある。
(何着ていこう。映画観るだけだから、あまり気合い入れた服だと意識してると思われちゃう)
クローゼットから服を引っ張り出して鏡の前で悩み、結局いつもバイトに行く時よりは少しだけ洒落たブラウスとジーンズ、ロング丈のカーディガンを羽織った服装に落ち着いた。
勤務終了時刻は午後6時、その後に映画ならば夕食も……と小池は考えているだろう。母には夕食は友達と食べてくるとだけ伝えて家を出た。
約束してしまった以上、今さら断れない。映画が楽しみなことには違いなく、小池には悪いが合コンに行くよりはマシだと思ってOKした。
しかし男と一緒に映画を観るのも、その後に食事をするのも芽依には苦痛だった。気が重い今朝は自転車を漕ぐスピードも遅くなる。
朝礼でも今日の小池は普段とは様子が違っていた。妙にソワソワしている。
午前中は芽依はレジ業務、小池はバックヤードで作業と担当が分かれていて正直ホッとした。
昼休みには母の手作り弁当をいただく。昨夜の夕食の余りの肉じゃがが入れてあった。
二日目で味の染みたじゃがいもを美味しそうに頬張る芽依を年上の同僚女性が眺めている。
「清宮さんのお弁当いつも美味しそうだよね。清宮さんの手作り?」
「母の手作りです。私はこんなに料理上手くないですよ」
「お母さんの手作りかぁ。いいなぁ。私は上京組だから、しばらく母親の味ってものを食べてないのよ」
そう言って同僚女性はコンビニのサンドイッチの封を開けた。
芽依にとっての母親の味はこの肉じゃが。ハンバーグもコロッケもサバの味噌煮も、料理上手な母の料理はなんでも好きだ。
芽依は両親が大好きだった。二人がいけなければ今の彼女はいない。
彼氏でも友達でもなく、両親とずっと一緒にいたい。彼らはひとりぼっちだった芽依の手を握ってくれた人達だから。
突如、頭に激痛が走る。──夕暮れに染まる公園、赤い葉っぱ、ひとりぼっち、揺れるブランコ、水彩絵の具とクレヨン……
「どうかした?」
「……お手洗い行ってきます」
笑って誤魔化して芽依は席を外した。トイレに駆け込んで痛む頭を押さえる。
物悲しい童謡のメロディが流れると同時に浮かぶ風景。ひとりぼっちの少女の手を繋ぐ温かい手。その手の甲には大きな火傷の痕があった。
(お兄ちゃん……)
誰かさんが、誰を見つけた……?
誰が見つけた?
誰を……見つけた?
赤い吹雪 ゆっくりじんわり広がって水溜まりになる
見下ろす先には動かないふたつの人形
ゼンマイの切れた人形
物悲しいメロディをふたりで口ずさんで歩く帰り道
温かい手のぬくもりを今も覚えている
握り締めた手。その手の甲には大きな火傷の痕……
*
10月8日(Sat)午前6時
まだベッドにいたい衝動と戦い、芽依は起き上がった。
今日は10時から本屋のバイトだ。バイトの後は小池と映画を観に行く約束がある。
(何着ていこう。映画観るだけだから、あまり気合い入れた服だと意識してると思われちゃう)
クローゼットから服を引っ張り出して鏡の前で悩み、結局いつもバイトに行く時よりは少しだけ洒落たブラウスとジーンズ、ロング丈のカーディガンを羽織った服装に落ち着いた。
勤務終了時刻は午後6時、その後に映画ならば夕食も……と小池は考えているだろう。母には夕食は友達と食べてくるとだけ伝えて家を出た。
約束してしまった以上、今さら断れない。映画が楽しみなことには違いなく、小池には悪いが合コンに行くよりはマシだと思ってOKした。
しかし男と一緒に映画を観るのも、その後に食事をするのも芽依には苦痛だった。気が重い今朝は自転車を漕ぐスピードも遅くなる。
朝礼でも今日の小池は普段とは様子が違っていた。妙にソワソワしている。
午前中は芽依はレジ業務、小池はバックヤードで作業と担当が分かれていて正直ホッとした。
昼休みには母の手作り弁当をいただく。昨夜の夕食の余りの肉じゃがが入れてあった。
二日目で味の染みたじゃがいもを美味しそうに頬張る芽依を年上の同僚女性が眺めている。
「清宮さんのお弁当いつも美味しそうだよね。清宮さんの手作り?」
「母の手作りです。私はこんなに料理上手くないですよ」
「お母さんの手作りかぁ。いいなぁ。私は上京組だから、しばらく母親の味ってものを食べてないのよ」
そう言って同僚女性はコンビニのサンドイッチの封を開けた。
芽依にとっての母親の味はこの肉じゃが。ハンバーグもコロッケもサバの味噌煮も、料理上手な母の料理はなんでも好きだ。
芽依は両親が大好きだった。二人がいけなければ今の彼女はいない。
彼氏でも友達でもなく、両親とずっと一緒にいたい。彼らはひとりぼっちだった芽依の手を握ってくれた人達だから。
突如、頭に激痛が走る。──夕暮れに染まる公園、赤い葉っぱ、ひとりぼっち、揺れるブランコ、水彩絵の具とクレヨン……
「どうかした?」
「……お手洗い行ってきます」
笑って誤魔化して芽依は席を外した。トイレに駆け込んで痛む頭を押さえる。
物悲しい童謡のメロディが流れると同時に浮かぶ風景。ひとりぼっちの少女の手を繋ぐ温かい手。その手の甲には大きな火傷の痕があった。
(お兄ちゃん……)
誰かさんが、誰を見つけた……?
誰が見つけた?
誰を……見つけた?