【Guilty secret】
 目を覚ました芽依は身体を襲うけだるさに顔をしかめた。鈍い動きで寝返りを打って枕に顔を伏せる。
彼女が寝ているベッドは彼の匂いに包まれていた。

(そっか。赤木さんと……しちゃったんだ)

赤木に抱き締められてキスをされた後の出来事をゆっくり再生する。あの後に赤木としたことを再確認した芽依は熱を帯びた頬に手を当てた。

 初恋の“お兄ちゃん”である赤木奏は芽依のすべての初めての男だった。
人を好きになることを極端に避け続けた10年間も、赤木のことは一度たりとも忘れた日はない。

会えない、会ってはいけないとわかっていても抑えきれなかった芽依の想いに今日の赤木は拒絶を示さなかった。

 性経験がある友達が初めては痛いと言っていた。でも痛かったけれど、それ以上に幸せだとも話していた。

当時は恋愛に興味のなかった芽依は、彼女達のそんな色恋の話を聞き流していた。自分の体内に男の異物が入る行為を、気持ち悪いとすら思っていた。

 だけどいざ自分が性行為を経験してみると、彼女達が好きな人とするセックスは幸せだと語った理由がよくわかる。

好きな人と身体も心もひとつになる。それは紛れもなく幸せな瞬間だった。身体は痛いけれど、赤木とひとつになれて芽依も幸せだった。

「……赤木さん? どこ?」

 ベッドには赤木の姿がなかった。眠る前には確かにそこにいた彼がいない。
ワンルームの静かな部屋に彼の姿はどこにもなかった。

不安に襲われた彼女はベッドに潜った。10年前も赤木の帰りを待つ間はこうして彼の布団に潜って時が過ぎるのを待っていた。

 玄関の方で物音がする。布団の隙間から顔を出した芽依は、部屋に入ってきた赤木の姿を見て安堵した。

私服姿の赤木はコンビニの袋を持っていた。買い物に行こうとした彼をすがりついて引き留めてしまったことを思い出す。

『身体の具合は?』
「えっと……なんかダルくて……お腹の辺りが変な感じ……。あと腰がちょっと、痛い……かも?」
『ま、当然だよな』

 何が当然なのか明かさないまま、彼は買った物を冷蔵庫に淡々と収納していく。牛乳パックだけは冷蔵庫には入れずに、ベッドにいる芽依に顔を向けた。

 あんなことをした後で、赤木と目を合わせるのを恥ずかしがった芽依は視線を床に下ろす。脱ぎ散らかされた芽依の衣服と下着が散乱する光景が、さらに彼女の羞恥心を煽った。

『そのままじゃ風邪引くぞ。とりあえずシャワー浴びるまでは、これ着てろ』
「……はい」

赤木から渡されたグレーのスエットを受け取って、彼に見られないように布団の中で下着を身に付けた。芽依の挙動不審な行動に赤木が呆れた溜息を漏らす。

『今さら必死で隠しても遅くない? もう全部見てるんだし』
「全部って……! 全部……見たんですか……?」
『全部見ないとできないことしたんだけど。って言うか10年前は一緒に風呂も入っただろ。それも覚えてないわけ?』
「覚えて……ますけど……あの時は子どもだったから……」

 赤木のスエットは芽依には大きくて、袖を折り曲げなければ手が出せない。赤木はキッチンで何かを作っている。
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