【Guilty secret】
『親に連絡したか?』
「あっ……!」

 両親への連絡を完全に失念していた。バッグから携帯電話を取り出すと今は午後8時、自宅からの着信が30分前に一度入っていた。

「どうしよう。お母さんから連絡来てる!」
『今から帰れば大学生の帰宅時間の常識内ではある。でも今の状況じゃまだ帰れそうもないな。……10時には帰るって言っておけ。家まで車で送ってやる。友達の家で勉強会してたとか上手く誤魔化せよ』

 赤木の提案を受け入れて芽依は自宅に連絡した。電話口の母は心配していたが、大学の友達と勉強会をしていると話すと安心して、帰り道気を付けてねと言って電話を切った。

母に嘘をついたことに一抹の罪悪感が残る。

『その様子だと芽依は大学生になっても夜遊びも朝帰りもしたことないのか』
「だってお父さんとお母さん心配させたくないもん」
『お前らしいな。飲め』

 彼が運んできたマグカップにはホットココアが入っていた。10年前も作ってくれた赤木のホットココアが芽依は大好きだ。

「もしかして買い物ってこれを作るために?」
『自分では飲まないからな』

赤木はココアではなくコーヒーだった。芽依のためだけに彼は家になかったココアパウダーを買いに出たようだ。

 ココアは10年前と同じ味がした。赤木のぬくもりに似た、ほっとする優しい甘さだった。

『夕方の症状、過呼吸かもな。何があった?』
「大学の前で沙耶お姉ちゃんが待ってて……」
『あの記者か。それで?』

 赤木はマグカップを置いて煙草の箱を取った。芽依の隣で彼は煙草に火をつける。

「両親を殺した犯人を捕まえたくないの? って聞かれた」
『芽依は犯人を捕まえたいか?』

彼は無表情に煙を吐いて、部屋に広がる紫煙を目で追った。ココアの入るカップを持つ手に力を込めて芽依はかぶりを振る。

「もう私には関係のないことだから」
『ああ。すべて終わったことだ。今一緒にいる親が芽依の親だ』

 二人は同じ瞳の色をしている。10年前と同じく、闇に沈んだ暗い瞳。

芽依は赤木に寄りかかった。赤木も芽依を迎え入れ、そこにある宝物を確かめ合うようにキスをして見つめ合って、またキスをする。
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