【Guilty secret】
『携帯貸せ。連絡先教えてやる』
赤木は芽依の携帯電話の新規アドレス欄に自分の連絡先を入力した。彼も自分のスマートフォンに芽依の連絡先を登録する。
『何かあればいつでも連絡してこいよ』
「いいの? 10年前の約束が……」
『約束は有効だ。これからも外では互いに知らないフリを通す。ただ何かあった時にすぐに連絡は取れる方がいい』
赤木の言う“何か”が今日のような過呼吸状態を指すのか、違う意味なのか。これ以上、10年前の事件に関連した出来事は起こらないで欲しい。
芽依を居間に残して赤木はキッチンに立った。何をしているのか様子を見に行くと、鍋でパスタが茹でられている。
その隣のボウルには湯煎《ゆせん》にかけられたレトルトソースが沈んでいる。
「これ……」
『10年前に芽依が好きだったもの』
茹で上がったパスタとレトルトのミートソースをフライパンの上で絡め、ウインナーと共にしばらく炒めて出来上がりだ。
キッチンに漂うミートソースの香りに芽依は歓喜した。
「“お兄ちゃん”のミートソーススパゲッティ!」
『昔も今も俺が作ったんじゃなくて全部レトルトだぞ』
テーブルにミートソーススパゲッティの皿が二つ並ぶ。芽依はいただきますと言って赤く染まるパスタをフォークに絡めた。
『10年前は飽きずにこればっかり食べてたよな』
「だってこれが一番美味しいもん」
ニコニコ笑う彼女は彼が作ったスパゲッティを頬張る。10年前も10年後も、嬉しそうに食べる彼女の笑顔は変わらない。
『ガキの頃は美味く感じても、今食べると味気ないだろ?』
「そんなことないよ。昔も今もこのスパゲッティには愛情がある。今のお母さんのご飯を食べてからは愛情があるご飯は本当に美味しいんだって知ったの。お母さんの作るご飯も、赤木さんのスパゲッティも……愛情が込められている」
芽依が初めて食べた愛情のある料理が10年前に赤木がレトルト食品で作ってくれたミートソーススパゲッティだった。
10歳まで愛情のある料理を知らなかった芽依には、これまで食べたどんな料理よりも赤木のミートソーススパゲッティが美味しかった。
「手作りでも愛情がなければ美味しくない。レトルト品でも愛情込めて作ってくれたご飯は美味しいんだよ。それを赤木さんが教えてくれた」
愛を知らなかった少女に愛を与えた男を少女が愛するのは必然のこと。
赤木は芽依から視線をそらして黙々とスパゲッティを咀嚼した。
彼の心の信号が点滅する。
進めの青と止まれの赤。その中間は?
引き返す? このまま進む?
今ならまだ引き返せる?
進み続ける?
10年前の約束は止まれのサイン。二度と会ってはいけないと心に誓って、幼い手を離し背を向けた。
今もまだ止まれの赤が彼に向けてチカチカ光っている。
進む? 止まる? 引き返す?
彼は迷っていた。
赤木は芽依の携帯電話の新規アドレス欄に自分の連絡先を入力した。彼も自分のスマートフォンに芽依の連絡先を登録する。
『何かあればいつでも連絡してこいよ』
「いいの? 10年前の約束が……」
『約束は有効だ。これからも外では互いに知らないフリを通す。ただ何かあった時にすぐに連絡は取れる方がいい』
赤木の言う“何か”が今日のような過呼吸状態を指すのか、違う意味なのか。これ以上、10年前の事件に関連した出来事は起こらないで欲しい。
芽依を居間に残して赤木はキッチンに立った。何をしているのか様子を見に行くと、鍋でパスタが茹でられている。
その隣のボウルには湯煎《ゆせん》にかけられたレトルトソースが沈んでいる。
「これ……」
『10年前に芽依が好きだったもの』
茹で上がったパスタとレトルトのミートソースをフライパンの上で絡め、ウインナーと共にしばらく炒めて出来上がりだ。
キッチンに漂うミートソースの香りに芽依は歓喜した。
「“お兄ちゃん”のミートソーススパゲッティ!」
『昔も今も俺が作ったんじゃなくて全部レトルトだぞ』
テーブルにミートソーススパゲッティの皿が二つ並ぶ。芽依はいただきますと言って赤く染まるパスタをフォークに絡めた。
『10年前は飽きずにこればっかり食べてたよな』
「だってこれが一番美味しいもん」
ニコニコ笑う彼女は彼が作ったスパゲッティを頬張る。10年前も10年後も、嬉しそうに食べる彼女の笑顔は変わらない。
『ガキの頃は美味く感じても、今食べると味気ないだろ?』
「そんなことないよ。昔も今もこのスパゲッティには愛情がある。今のお母さんのご飯を食べてからは愛情があるご飯は本当に美味しいんだって知ったの。お母さんの作るご飯も、赤木さんのスパゲッティも……愛情が込められている」
芽依が初めて食べた愛情のある料理が10年前に赤木がレトルト食品で作ってくれたミートソーススパゲッティだった。
10歳まで愛情のある料理を知らなかった芽依には、これまで食べたどんな料理よりも赤木のミートソーススパゲッティが美味しかった。
「手作りでも愛情がなければ美味しくない。レトルト品でも愛情込めて作ってくれたご飯は美味しいんだよ。それを赤木さんが教えてくれた」
愛を知らなかった少女に愛を与えた男を少女が愛するのは必然のこと。
赤木は芽依から視線をそらして黙々とスパゲッティを咀嚼した。
彼の心の信号が点滅する。
進めの青と止まれの赤。その中間は?
引き返す? このまま進む?
今ならまだ引き返せる?
進み続ける?
10年前の約束は止まれのサイン。二度と会ってはいけないと心に誓って、幼い手を離し背を向けた。
今もまだ止まれの赤が彼に向けてチカチカ光っている。
進む? 止まる? 引き返す?
彼は迷っていた。