【Guilty secret】
 あの時の美月が高校生だったから惚れたのではない。しかしそんなこと、この男に語っても無駄だ。
美月と過ごしたあの夏の一夜を、AVもどきの下品な妄想で汚されたくもない。

『あんたのことが記事になれば当然、美月チャンにもあんたが生きてると知られる。この可愛い顔がどんな風になっちゃうんだろうな? 俺もできれば可愛い女の子は泣かせたくない』
『それで?』
『取引しようじゃないか。あんたが生きてることは大スクープだが、美月チャンのためにも俺の胸の中にしまっておく。もちろん警察にも言わない。その代わりカオスのネタをこっちに渡してくれないか?』

 佐藤がかつて所属していた犯罪組織カオスは2年前に組織トップの貴嶋佑聖の逮捕によって壊滅した。貴嶋は今も東京拘置所の中だ。

『お前の狙いは最初からカオスの情報だろう?』
『ああ。それとキングの貴嶋。キングはあんたの上司だよな。内部にいた人間として何か面白いネタはない? ドカンと血がたぎるでっかいネタを俺は渇望してるんだ。ネタの提供の代わりにあんたの存在は秘密にしておいてやる』

口元を斜めにした佐藤は懐に入れた手を抜かずに国井に近付いた。

『いいだろう。カオスの情報を教える』
『お、おう。ちょっと待てよ。メモの準備を……』
『その必要はない』

 懐から抜いた佐藤の手には拳銃が握られ、銃口は国井の頭部に向いていた。国井は持っていたスマホと手帳を地面に落として尻餅をつく。

佐藤は冷たい眼差しで顔面蒼白の国井を見下ろした。

『知らないなら教えてやろう。犯罪組織の人間は部下も連れずにひとりでは行動しない。俺ひとりでここに来たと本当に思っていたのなら、お前は馬鹿か?』

 倉庫の入り口では銃を持つ部下の日浦が国井を威嚇している。前を佐藤、後ろを日浦に挟み撃ちされた国井はまさに袋のネズミ。

『話次第では生かしておこうかと思ったが止めた。美月に目をつけたお前を生かしてはおけない。俺の弱点をついたつもりだろうが、それが命取りになったな』

 佐藤から漂う威圧感に国井は震え上がる。佐藤が犯罪組織カオスの人間だったとは聞き及んでいたが、これほどまでに恐ろしい男だとは思わなかった。

国井が過去に取引したチンピラの比ではない。これが犯罪組織カオスの人間……

『待ってくれ……! 取引はなし! 今の話はなかったことに……お願いだ!』
『なんだよ。でかいネタ渇望してんだろ? ならもうひとつ、いいこと教えてやる』

拳銃のロックを解除する重たい響きは命の終末への合図。

『犯罪者に命乞いは通用しない』

 佐藤は容赦なくトリガーを引いた。銃弾が国井の頭部を貫き、心臓を強制的に止められた国井龍一が地面に大の字に横たわった。

黒の革手袋の嵌まる手で佐藤は国井のスマホを拾い上げる。入り口にいた日浦も側に来た。

『国井の持ち物を探れ。レコーダーで会話を録音しているかもしれない』
『はい』

 日浦に命じて国井の荷物を探らせている間、佐藤は国井のスマホの背面パネルを外して内蔵されたSDカードを引き抜いた。カードを抜いたスマホを地面に叩き落としてスマホに向けて銃を撃つ。

画面に銃弾がめり込んで粉々にひび割れたスマートフォンの無惨な姿は、皮肉にも持ち主の国井と同じ有り様だった。
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