【Guilty secret】
 午前6時に日の出埠頭の倉庫で男性の死体発見の110番通報があった。所持していた運転免許証から、被害者は風見新社に勤めるジャーナリストの国井龍一と判明。

現場に赴いた警視庁捜査一課の上野恭一郎警部は死体の傍らにある粉々になったスマートフォンに目を留めた。

『スマートフォンの修復は可能か?』
『あー……これはダメですね。内部まで見事に破損しています。外は綺麗に直せたとしても内部の復元は難しいかと……データをバックアップするSDカードも抜かれています』

 慎重にスマホを持ち上げて調べていた鑑識員が首を横に振る。上野はひび割れたスマホを一瞥して死体に目を向けた。

『他に遺留品は?』
『財布の現金やカード類は手付かずです。車のキーは服のポケットにありました。ガイシャの車はすぐそこに停まったままになっています』

 部下を連れて上野が倉庫を出ると、ちょうど小山真紀が規制線のテープを潜ってこちらに入ってきた。
真紀の腹部は日に日に大きくなっている。彼女の胎内に宿る命は確実に日々成長していた。

『小山、無理はするなよ』
「大丈夫です。刑事ですから」

 真紀は上野の気遣いに感謝して殺害現場に足を踏み入れた。国井龍一は冷たい地面の上で大の字に横たわっている。

妊娠して捜査から一戦を退いていた真紀は、久々に目の当たりにした死体から目をそらさず凝視した。

 撃たれた頭部から流れ出た血が赤黒く凝血している。死に顔から読み取れる感情は苦悶と驚愕、あとは何だろう?

血の臭いと埃っぽい倉庫の空気に口元を押さえた。これ以上はお腹の子に悪影響だ。
見るべきものを見て倉庫を出た真紀を上野が待っていた。

『死後3時間程度、死亡推定時刻は午前4時頃だ。国井の車が近くに停まっている』
「国井はここで誰かと会う予定だったのでしょうか?」
『おそらくな。死体の側に破壊されたスマホがあった。たぶん国井の物だ』

 朝日が東京湾を照らしている。上野が持つビニール袋に入るスマートフォンは画面がひび割れ、本体が傷だらけだった。

「酷いですね。スマホをこんな粉々に……」
『内蔵されていたと思われるmicroSDカードも抜き取られてどこにもない。これを破壊した人物は、SDカードを抜いた上でスマホを銃で撃ったんだろうな』
「スマホには犯人にとって不都合なものや重要なデータが入っていたのかもしれませんね」

国井の死体が運び出される。彼が警視庁を訪ねてきたのは一昨日のことだ。
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