【Guilty secret】
『国井がお前のとこに来た目的は未解決事件の取材にかこつけたカオスのネタ探しだったんだよな』
「はい。あの時はペラペラと口の回る相変わらずな様子でした。まさかあれからすぐに国井の死体と対面するなんて……」

 国井の車を調べていた刑事から報告があった。車には国井のノートパソコンがあり、刑事がパソコンを起動させた瞬間に何らかのコンピューターウイルスが発動して、パソコンの内部データがすべて消去されてしまったらしい。

ウイルス発動の話に上野は顔をしかめた。真紀も意味深長に押し黙る。

『ウイルスで内部データの破壊か。この感覚は久しぶりだな。どこかの組織が後始末に使う手によく似ている』
「ええ……。警部、国井はカオスと貴嶋のこと、それと美月ちゃんのことも調べていました」
『美月ちゃんを調べても彼女はカオスとは関わりがない。無駄なことを』

 潮風が上野と真紀の間をすり抜ける。東京湾の波は穏やかだが風がとても冷たかった。

「でも国井はそうは思っていなかったのでは? なんだかこの事件、これまでにカオスが起こしてきた事件と同じものを感じます。匂いが同じと言うか……同じ性質のような気が……」
『まさに刑事の嗅覚だな』

 犯罪組織カオスは2年前に壊滅したはずだ。カオスとの戦いは2年前に幕が下ろされた。上野も真紀もそう信じていた。

『国井はカオスに関連したネタを掴み、国井の動きを察知した何者かに消された。相手が武器を使ってることから考えても、まず堅気の人間同士のいざこざではない』
「国井が何を掴み、誰に消されたのか……」

 ふいに真紀の中に2年前に有耶無耶《うやむや》になった疑念が浮上する。2年前の貴嶋の逮捕直前に、ホテルに軟禁されていた浅丘美月を真紀は救出した。

あの時の美月の様子が今も心のどこかで引っ掛かっている。

 美月の世話役として彼女と共にホテルにいた三浦英司《みうら えいじ》と名乗る男は2年前に忽然と姿を消した。貴嶋も逮捕した幹部も、消えた三浦の情報は固く口を閉ざして語らない。
美月も三浦については多くを話したがらなかった。

 国井が追っていた犯罪組織カオス、貴嶋佑聖、浅丘美月……この三点を結びつけた中心に現れる三浦英司という謎の男。

正体不明のあの男は今、どこにいるのだろう。

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