【Guilty secret】
25.偶然の一致
 風見新社のジャーナリスト、国井龍一殺害のニュースは昼の報道番組で報じられた。

{──殺害された男性は風見新社、社会部副編集長の国井龍一さん……}

 明鏡大学の学食で昼休みを過ごしていた浅丘美月は、学食のテレビから流れるニュースに耳を傾ける。

最近どこかで風見新社の名を聞いた。どこで耳にしたか思い出した彼女は、財布のカード入れに挟まった西崎沙耶の名刺を確認する。

「美月どうしたの?」
「今テレビでやってた殺人事件のニュース……殺された人と同じ会社の人と最近会ったの」

 後輩の清宮芽依を調べに大学を訪れた沙耶は風見新社の社会部の記者だった。美月が持つ名刺を友人の石川比奈が眺める。
美月は沙耶の名刺をかざして唸った。

「最近会った人と同じ会社の人が殺された。……これって偶然?」
「そういうこともあるんじゃない? 知り合いと同じ会社の人がどこかで事件に巻き込まれるってことも、この大都会じゃ有り得るかもよ」
「でも社会部ってなると、殺された人は多分この西崎って人の上司だと思うの」
「だとしても、西崎って記者がここに来た目的は美月の後輩に関係したことなんでしょ? 殺されちゃった人がここに来たってわけでもないんだし」

比奈は気にもしていない。美月は釈然とせずに名刺を財布に戻した。

「そうなんだけどぉ。こんな偶然あるのかな……」
「こらこら、美月ぃー!」

 比奈が美月の両頬を軽くつねる。何事かと驚いた同じテーブルの友人達が二人に目を向けた。

「君はいつもいつも危ないことに自分から首突っ込んでいくんだからっ。この推理小説オタクのホームズマニアめっ! 私がこれまでどれだけ心配してきたと思ってるの?」
「い、いひゃい……ひぃにゃひゃん……ごめんなはい……」

頬をつねられて上手く発音ができない美月は手のひら同士を合わせて謝罪のポーズをとる。しかめっ面の比奈は美月の頬から手を離した。

「ニュースの事件と美月の後輩を調べてる記者が関わりがあったとしても、美月には関係ないこと! それよりも美月はドレスどれにするか決めないと。来年の今頃は結婚式なのよ。二次会のこともあるし、少しは二次会幹事の私の身にもなりなさいっ!」
「はぁーい」

 比奈の意見はもっともだ。西崎沙耶の上司が殺されたとしても自分には関係のないこと。

 風見新社のジャーナリスト殺人事件のニュースはもう流れていない。テレビの報道時間にしても1分程度だ。

人が亡くなったニュースも関係がない一般大衆には報道時間30秒で事足りる。関係がないから聞き流せる。

 清宮芽依……10年前の佐久間芽依の両親が殺されたニュースも、当時12歳だった美月はテレビの中の出来事として聞き流していた。

もしかしたら膨大な情報が溢れている日常で、聞き流してしまっている重大な出来事が世の中には多いのかもしれない。

(今日は芽依ちゃん見かけないなぁ……)

 多くの学生で賑わう学食で芽依の姿を見つけることはできなかった。
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