【Guilty secret】
26.繋がる点と点の先に
 16時を回ったデザイン事務所Fireworksに来訪者がやって来た。

『赤木。お客さん来てるぞ』

二階のデスクで作業をしていた赤木奏は同僚の声に顔を上げる。

『下で待ってもらってる。これをお前に渡してくれって』

 同僚が赤木に小さな紙を渡した。それは名刺で、風見新社 社会部、西崎沙耶の名前がある。赤木はすぐに、芽依の両親の特集記事の担当記者だと気付いた。

どこで自分の情報を掴んだか知らないが、とうとうここまで乗り込んで来たということだ。それなりの覚悟を決めて会わなければならない。

 赤木が螺旋階段を降りて下に行ってしまうと、赤木の前のデスクにいた園山詩織はコーヒーを淹れている同僚に話しかけた。

「赤木さんにお客さんって珍しいですね。新規のクライアントですか?」
『クライアントじゃなくて記者』
「カルチャー誌の取材は赤木さんは嫌がっていつもは受けないのに……」
『ああ、名刺に社会部ってあったから、あれはカルチャー誌の記者じゃないよ。なんかこう、もっと個人的な要件って気がする。わりと可愛い記者さんだったけど、赤木と何があるんだろうな?』

同僚の最後のセリフが詩織には聞き捨てならなかった。来客は男だと思い込んでいたが女、同僚の言葉を借りれば“わりと可愛い”らしい。
その女記者が赤木に個人的な要件?

 無人となった赤木のデスクにはやりかけのデッサンと、鉛筆の削りくずが残されていた。

 螺旋階段を降りて一階に到着した赤木は、ソファーに座る見知らぬ女の姿を見つけた。女は赤木を見ると立ち上がって会釈する。

「風見新社の西崎と申します。お忙しい中、アポイントメントもなしに申し訳ございません」
『いいえ。あちらでお話を伺います。どうぞ』

 赤木はガラス張りの応接室に沙耶を案内する。部屋に入った彼は応接室のブラインドを下げて、外からは室内の様子を見えなくさせた。

「さっそくですが、赤木さんは10年前に小平市で起きた社長夫妻殺人事件を覚えていらっしゃいますか?」
『殺人事件なんていくつも起きていますし……10年前のことなら記憶にありませんね』

 ソファーに向き合う赤木奏と西崎沙耶は穏やかに会話を始めた。

「しかし赤木さんは10年前に小平市にある日本美術大学に在籍されていましたよね。Fireworksさんのホームページのプロフィールで拝見しました」
『確かに僕は日本美術大の出身ですが、大学が小平市ってだけで10年前の事件のことを聞かれても困りますね。コーヒーでも飲みますか?』

立ち上がりかけた赤木を沙耶は片手を挙げて制する。

「いえ、お構い無く。では殺害された佐久間晋一さん、聡子さんご夫妻と面識は?」
『あるわけないでしょう。まったく知らない人達です』
「そうですか……。私は10年前の佐久間夫妻殺人事件を個人的に調べています。事件は犯人が捕まらずに未解決となりました。弊社で未解決事件の特集として私がこの事件の記事を書くはずでした」
『はず……? 記事は書かれないのですか?』

芽依から聞いた話と沙耶の話の相違点に赤木はわずかに首を傾げる。沙耶は頷いた。
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