【Guilty secret】
 レコーダーには先ほどの赤木との会話を録音していたが、沙耶はレコーダーの停止ボタンを押した。

「だからこれは仕事とは関係がない私の個人的な取材です。レコーダーのスイッチは切りました。あなた達が何をお話になっても私以外の耳には入りませんので、ご安心ください」

 ジャーナリストにとって命よりも大切なレコーダーを相手の前で停止させた行為は、沙耶の決意の表れ。

『でもここからの話は君にとって聞くのが辛い話になるかもよ?』

矢野が言う。沙耶はレコーダーを矢野に渡した。

「構いません。私は真実が知りたい。10年前に本当は何があったのか、西崎沙耶として、知りたい」

 沙耶の決意を受け止めた早河と矢野は視線を合わせる。これから沙耶に話すことは、小山真紀が再捜査で得た情報を元に立てた例の仮説だ。

『まず君は被害者の娘の佐久間芽依と親しかったんだろ?』
「ええ……。探偵ってそんなことまで調べているんですね。芽依ちゃんとは年齢は離れていましたけど、たまに公園で遊んだりしていました」
『君から見て、佐久間芽依と母親の関係はどう見えた?』
「なんでそんなことを……」
『仮説の説明のために必要なことだ。答えてくれ』

有無を言わさぬ問答に彼女は狼狽する。彼らが考えた仮説は一体どんな内容なのだろう。

「そう言われても、芽依ちゃんとお母さんが一緒にいるところをあまり見掛けたことがなくて……」
『なら質問を変えよう。芽依は母親を嫌っていたと思うか?』
「芽依ちゃんはご両親の話をしない子でしたから、わかりません。芽依ちゃんがお母さんを嫌っていたとしてもそれが事件と関係があるんですか?」

 嫌な胸騒ぎの嵐が沙耶の心中に吹き荒れる。当たってほしくない想像を彼女は必死に掻き消した。

 早河はブロック塀に背をつけた。道の両脇に茂る木が縦横無尽に枝を伸ばして、頭上で木のトンネルを形成している。

『俺達は芽依はネグレクトに遭っていたんじゃないかと考えた』
「ネグレクトって……育児放棄? 聡子さんが?」
『芽依が母親を好ましく思っていなかったとの証言は芽依の担任教師から得ている。他にも父親は子ども嫌いだったようだ。それだけではまだ芽依がネグレクトされていたと断定できないが、これはひとつの仮説として考えてくれ』
「わかりました。仮説として、芽依ちゃんがネグレクトされていたとします。それで……?」

その先を聞くのが怖いと思うのは何故?

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