【Guilty secret】
『ネグレクトされていた芽依は親の愛情が極端に不足していた。毎日学校と塾の行き来、家では両親の育児放棄。そんな芽依に小3の秋にある出会いが訪れる』
小学3年の秋と聞いて沙耶は息を呑む。事件の1年前だ。
『芽依はこの時期からある人物と交流を持ち始めた。俺達はこの人物を美大に通う美大生Aと仮定した。Aに絵を教わった芽依は、この頃から急激に絵の腕が小学生の域を越えたものになっていく。芽依はAを慕い、Aも芽依に愛情を注いだ。それは擬似的な親子関係だったのかもしれない』
沙耶の心臓の鼓動が速い。早河の仮説は沙耶が立てた仮説と瓜二つだった。
『その“美大生A”の情報を君は掴んでいるね?』
「……はい。おそらく、早河さんの仮説に出てくる美大生Aはこの男です」
沙耶が持つタブレット端末の画面を早河と矢野は覗き込んだ。カラオケ店の入り口に立つ男女が写っている。
「こっちの女の子が10年前の佐久間芽依、隣の男の名前は赤木奏。Fireworksの社員です。彼は10年前は小平市にある日本美術大学の学生でした」
沙耶の指が画面をタップして赤木奏の顔を拡大表示する。彼女は赤木の情報を記した手帳も二人に見せた。
「私は事件後に行方不明になった芽依ちゃんが1週間誰と一緒にいたのかを調べていました。事件から1週間後に保護された芽依ちゃんは衰弱もなく、服装も事件当時と異なっていた。芽依ちゃんの身の回りの世話を1週間していた人物が必ずいます」
『それがこの男?』
沙耶の手帳には赤木の生年月日と勤務先、出身大学のみ記入されている。現時点で赤木について沙耶が得ている情報はこれだけだ。
「芽依ちゃんが一時期入所していた児童養護施設の園長先生に話を聞いてきました。芽依ちゃんは落ち葉の絵がとても上手なんです。芽依ちゃんが作った落ち葉と夕陽の貼り絵は今も施設の玄関に飾られていました。これです」
タブレットの画面を切り替えて今度は児童養護施設みどり園に飾られた芽依の絵の写真を早河達に見せた。絵を見た矢野が唸る。
『これは凄いな。全部、佐久間芽依がひとりで作ったの?』
「園長先生はそう仰っていました。絵に付けられた題名は約束。この絵は芽依ちゃんと誰かとの約束を表しています」
真っ赤な夕陽を背景に真っ赤な落ち葉がひらひら舞う。絵の具の赤と色鉛筆の赤、折り紙の赤、すべてが赤色の世界だ。
『その約束の相手が美大生A、つまり赤木奏』
「だと思います。この時の芽依ちゃんには大切な誰かがいたんじゃないかと、園長先生も考えていたようです。でも芽依ちゃんに1週間誰と一緒にいたのか聞いても答えてくれませんでした。それどころか事件の話をすると途端に敵意剥き出しの反応になって……」
項垂れる沙耶にこれ以上の仮説を聞かせることは残酷な行為だろう。それでも彼女は真実を知りたがっている。
『現場には佐久間家の人間のものではない27㎝の足跡が残っていた。27㎝と聞いて男と女どちらの足跡を思い浮かべる?』
「女で27㎝は大き過ぎます。男なら平均的なサイズですよね?」
『ああ、俺達も足跡の主は男だと仮定した。足跡は勝手口まで続き、帰りも勝手口から出ている。侵入経路が勝手口なのは間違いない。しつこくて申し訳ないが、もう一度聞く。この事件の記事は書かないんだよな?』
沙耶は早河を見据えて頷いた。ここで見聞した情報を公表する気は毛頭ない。
小学3年の秋と聞いて沙耶は息を呑む。事件の1年前だ。
『芽依はこの時期からある人物と交流を持ち始めた。俺達はこの人物を美大に通う美大生Aと仮定した。Aに絵を教わった芽依は、この頃から急激に絵の腕が小学生の域を越えたものになっていく。芽依はAを慕い、Aも芽依に愛情を注いだ。それは擬似的な親子関係だったのかもしれない』
沙耶の心臓の鼓動が速い。早河の仮説は沙耶が立てた仮説と瓜二つだった。
『その“美大生A”の情報を君は掴んでいるね?』
「……はい。おそらく、早河さんの仮説に出てくる美大生Aはこの男です」
沙耶が持つタブレット端末の画面を早河と矢野は覗き込んだ。カラオケ店の入り口に立つ男女が写っている。
「こっちの女の子が10年前の佐久間芽依、隣の男の名前は赤木奏。Fireworksの社員です。彼は10年前は小平市にある日本美術大学の学生でした」
沙耶の指が画面をタップして赤木奏の顔を拡大表示する。彼女は赤木の情報を記した手帳も二人に見せた。
「私は事件後に行方不明になった芽依ちゃんが1週間誰と一緒にいたのかを調べていました。事件から1週間後に保護された芽依ちゃんは衰弱もなく、服装も事件当時と異なっていた。芽依ちゃんの身の回りの世話を1週間していた人物が必ずいます」
『それがこの男?』
沙耶の手帳には赤木の生年月日と勤務先、出身大学のみ記入されている。現時点で赤木について沙耶が得ている情報はこれだけだ。
「芽依ちゃんが一時期入所していた児童養護施設の園長先生に話を聞いてきました。芽依ちゃんは落ち葉の絵がとても上手なんです。芽依ちゃんが作った落ち葉と夕陽の貼り絵は今も施設の玄関に飾られていました。これです」
タブレットの画面を切り替えて今度は児童養護施設みどり園に飾られた芽依の絵の写真を早河達に見せた。絵を見た矢野が唸る。
『これは凄いな。全部、佐久間芽依がひとりで作ったの?』
「園長先生はそう仰っていました。絵に付けられた題名は約束。この絵は芽依ちゃんと誰かとの約束を表しています」
真っ赤な夕陽を背景に真っ赤な落ち葉がひらひら舞う。絵の具の赤と色鉛筆の赤、折り紙の赤、すべてが赤色の世界だ。
『その約束の相手が美大生A、つまり赤木奏』
「だと思います。この時の芽依ちゃんには大切な誰かがいたんじゃないかと、園長先生も考えていたようです。でも芽依ちゃんに1週間誰と一緒にいたのか聞いても答えてくれませんでした。それどころか事件の話をすると途端に敵意剥き出しの反応になって……」
項垂れる沙耶にこれ以上の仮説を聞かせることは残酷な行為だろう。それでも彼女は真実を知りたがっている。
『現場には佐久間家の人間のものではない27㎝の足跡が残っていた。27㎝と聞いて男と女どちらの足跡を思い浮かべる?』
「女で27㎝は大き過ぎます。男なら平均的なサイズですよね?」
『ああ、俺達も足跡の主は男だと仮定した。足跡は勝手口まで続き、帰りも勝手口から出ている。侵入経路が勝手口なのは間違いない。しつこくて申し訳ないが、もう一度聞く。この事件の記事は書かないんだよな?』
沙耶は早河を見据えて頷いた。ここで見聞した情報を公表する気は毛頭ない。