【Guilty secret】
3.ラストオータム
 それから業務をこなす中で芽依は二つミスをしてしまった。いつもなら出来ることが出来ない。集中力が続かない。
小池にもフォローばかりさせてしまった。

「小池さんすみません。ミスばかりしちゃって……」
『気にしなくていいよ。着替えたら店の前でね』

 勤務を終えて廊下で小池と別れる。女性用更衣室で着替えを済ませた芽依は従業員出口から外に出た。

すっかり日の暮れた18時の街。店の前で小池が待っていた。私服に着替えた彼は先ほどまでとは雰囲気が違い、照れ臭そうに芽依の隣を歩いている。

 映画は三軒茶屋からすぐに行ける渋谷の映画館で観ることにした。三軒茶屋駅から渋谷駅までは乗り換えなしで5分で行ける。

渋谷に到着しても隣で並んで歩く二人の間隔は少し開いていた。恋人でもなければ友達でもない異性との、適切な距離感が芽依にはよくわからない。

 土曜日の映画館は混んでいた。カップルの姿も多く、自分と小池も周囲から見ればカップルに映るのではないかと思う。

芽依達が観るラストオータムの上映開始時刻は19時だ。1時間半の映画が終わる頃には21時が近い。

「芽依ちゃん?」

飲食販売の列に並ぼうとしていた芽依は左方向から名前を呼ばれた。赤いチェック柄のワンピースを着た女性が手を振っている。

「美月先輩!」

 芽依は驚きと歓びの二つの感情が混ざった声を上げた。芽依と同じ大学の2年先輩で密かに憧れている浅丘美月がそこにはいた。

「偶然ね。もしかしてデート?」

チェック柄のワンピースの裾を翻して美月が芽依に歩み寄る。彼女は芽依の隣にいる小池に会釈した。小池も会釈を返す。

「違いますよ。バイト先の先輩に映画の優待券があるから誘われて……」
「私に言い訳しても仕方ないでしょー?」

大袈裟に首を振る芽依を見て美月は微笑む。今日も浅丘美月は優しくて愛らしい。
< 9 / 118 >

この作品をシェア

pagetop