【Guilty secret】
『俺は芽依に絵を教えるようになりました。あいつ専用のスケッチブックと色鉛筆を買ってやったんです。スケッチブックと色鉛筆を渡すと芽依は凄く喜んで……そんな高い物でもないのに、自分の物を与えられたことが嬉しかったんでしょうね』
赤木から与えられたスケッチブックと色鉛筆を大事そうに塾の教材が入るトートバッグに入れて、芽依はまた悲しげな顔で塾に向かう。
一度、芽依が通う塾の近くまで見送りをした。英会話塾は鷹の台駅の側にあり、芽依は他にも何ヵ所かの塾を掛け持ちしている。
赤木のバイトがある月曜と水曜も芽依は塾があり、土曜日も芽依は塾に通っていた。
小学生がそんなにいくつもの塾に通う必要があるのか赤木には疑問だった。親の教育方針にしても、やり過ぎだと思った。これでは芽依に自由がない。
『雨の日と冬は図書館で絵を描きました。そのうち折り紙や絵の具も教えてやって……。でも俺と会った後に塾に向かう時、芽依はいつも悲しそうな顔をしていた。本当は塾に行きたくなかったんでしょう』
『芽依の母親は教育熱心だったらしいな』
赤木の昔話に男が初めて口を挟んだ。赤木は苦笑いして眼鏡の男を見た。
『なんでも知っていますね』
『大方のことは把握している。続けろ』
赤木の昔話は2000年の冬から2001年の春に移り変わる。桜と新緑の季節になった。
『俺が大学4年になって学校のスケジュールも変わると芽依と会える曜日も変わりました。芽依も塾の曜日が変わって、会える頻度は前より減った。それでも日曜に会って自転車の裏に芽依を乗せて少し遠出して、絵を描きに行ったり。あの頃は芽依の絵が上達するのを見るのが楽しかった』
──“私ね、写生大会で優勝したんだよ! お兄ちゃんのおかげだよ!”──
小学4年の写生大会で優勝した表彰状を芽依は赤木に見せた。芽依の絵の師匠としては彼女の絵が優勝したことは素直に嬉しく、芽依の頑張りを褒めた。
『俺と一緒にいる時の芽依はどこにでもいる、公園で遊ぶ子ども達と変わらない普通の小学生でした。友達に借りた少女マンガの男のセリフを俺に言わせようとして、あれでけっこうマセガキだったので参りました』
『芽依はお前に惚れていたんだな』
『薄々感じていました。思春期の女の子の、よくある大人の男への憧れみたいなものだと思います。もう少し成長すれば、芽依の方から離れていくだろうと軽く考えていました』
そうして春が過ぎ、初夏になり、赤木は芽依の冷えきった親子関係を知った。
『どんな会話の流れでそんな話になったか覚えていませんが、親を選べればいいのにと芽依が言ったんです』
──“子どもって不幸だよね。だって子どもは親を選べない。親を選べれば子どもはもっと幸せになれるのにね”──
赤木から与えられたスケッチブックと色鉛筆を大事そうに塾の教材が入るトートバッグに入れて、芽依はまた悲しげな顔で塾に向かう。
一度、芽依が通う塾の近くまで見送りをした。英会話塾は鷹の台駅の側にあり、芽依は他にも何ヵ所かの塾を掛け持ちしている。
赤木のバイトがある月曜と水曜も芽依は塾があり、土曜日も芽依は塾に通っていた。
小学生がそんなにいくつもの塾に通う必要があるのか赤木には疑問だった。親の教育方針にしても、やり過ぎだと思った。これでは芽依に自由がない。
『雨の日と冬は図書館で絵を描きました。そのうち折り紙や絵の具も教えてやって……。でも俺と会った後に塾に向かう時、芽依はいつも悲しそうな顔をしていた。本当は塾に行きたくなかったんでしょう』
『芽依の母親は教育熱心だったらしいな』
赤木の昔話に男が初めて口を挟んだ。赤木は苦笑いして眼鏡の男を見た。
『なんでも知っていますね』
『大方のことは把握している。続けろ』
赤木の昔話は2000年の冬から2001年の春に移り変わる。桜と新緑の季節になった。
『俺が大学4年になって学校のスケジュールも変わると芽依と会える曜日も変わりました。芽依も塾の曜日が変わって、会える頻度は前より減った。それでも日曜に会って自転車の裏に芽依を乗せて少し遠出して、絵を描きに行ったり。あの頃は芽依の絵が上達するのを見るのが楽しかった』
──“私ね、写生大会で優勝したんだよ! お兄ちゃんのおかげだよ!”──
小学4年の写生大会で優勝した表彰状を芽依は赤木に見せた。芽依の絵の師匠としては彼女の絵が優勝したことは素直に嬉しく、芽依の頑張りを褒めた。
『俺と一緒にいる時の芽依はどこにでもいる、公園で遊ぶ子ども達と変わらない普通の小学生でした。友達に借りた少女マンガの男のセリフを俺に言わせようとして、あれでけっこうマセガキだったので参りました』
『芽依はお前に惚れていたんだな』
『薄々感じていました。思春期の女の子の、よくある大人の男への憧れみたいなものだと思います。もう少し成長すれば、芽依の方から離れていくだろうと軽く考えていました』
そうして春が過ぎ、初夏になり、赤木は芽依の冷えきった親子関係を知った。
『どんな会話の流れでそんな話になったか覚えていませんが、親を選べればいいのにと芽依が言ったんです』
──“子どもって不幸だよね。だって子どもは親を選べない。親を選べれば子どもはもっと幸せになれるのにね”──