【Guilty secret】
『もっと優しくて子ども好きな親のところに生まれてきたかった……そんなようなことを言っていました。芽依は自分の親を嫌っていた。特に母親に対して強い憎しみがあった』
『母親がネグレクトをしていたとの情報があるが事実か?』
『育児放棄のことですね。芽依の話でだいたいの予想はつきました』
芽依は暗く冷めた瞳で淡々と自分の親について語った。
──“私はあの人達のお人形なんだよ。なんでも言うことを聞く、いつもはそこにいない透明なお人形なの”──
赤木以外の人間が聞けば、そんな芽依を恐ろしく感じたかもしれない。赤木だったから、芽依を受け入れることができた。
『芽依は家で無視されていたんです。食事の用意はあっても自分の部屋でひとりで食事をする、誕生日も祝われたことがない。その代わり祖父母の前や家に人が集まる時だけは、父親も母親も極端に芽依に優しい。芽依の両親は外面だけはいい親を演じていた。だから誰も育児放棄には気付かない』
『まさに仮面家族だな。……見えない虐待か』
『その通りです。芽依は親の必要な時にだけ“娘”を演じる透明な人形に徹していました』
夏が終わり、赤木の昔話は事件が起きたあの10年前の秋を迎えた。
赤木を乗せた車が都心に張り巡らされた大動脈を縦横無尽に走る。この車はどこまで走り続けるのだろう、最後は自宅まで送り届けてくれるのか赤木はふと疑問に思った。
『10年前の殺人事件、お前達が殺したのか?』
得体の知れない男から核心の言葉が放たれても赤木は動じない。彼は静かに頷いた。
『俺が殺ったんです』
『芽依も一緒に、だろ? それもどちらかと言えば芽依が主犯だ。最初に親の殺害計画を持ちかけたのは芽依じゃないのか?』
『違います。俺が……殺そうって……』
『嘘だな。お前は芽依に殺人をさせたくなかった。お前から殺人の提案はしなかったはずだ』
──“あの人達が死ねば私は幸せになれるのかな”──
それが10歳の少女の願いだった。まだ、たった10年しか生きていない芽依の結論だったのだ。
『どうして芽依に加担した? いくら芽依を可愛がっていても結局は他人だ。他人のために自分が犯罪者になる、お前をそこまで突き動かしたものは何だ?』
『……同じなんです。俺も親を殺したいと思っていた子どもでした』
前傾姿勢になった赤木は握り締めた拳を額に寄せた。10年前も10年後も一生消えない苦悩と葛藤が彼を苦しめ続けている。
『共鳴ってヤツですかね。初めて芽依を見た時から不思議と感じていた感情がありました。それが何かはわかりません。だけど芽依と俺は同じだった。俺は芽依を……助けたかった』
『だから両親を殺して芽依を親の人形から解放した……そういうことか』
『はい。10月に入った頃には芽依は親殺しを決めていました。あとは決行をいつにするか……。芽依は母親だけではなく自分に無関心な父親も憎んでいた。仕事が忙しい父親が家にいることはあまりなく、決行日がなかなか決まらなかった』
『母親がネグレクトをしていたとの情報があるが事実か?』
『育児放棄のことですね。芽依の話でだいたいの予想はつきました』
芽依は暗く冷めた瞳で淡々と自分の親について語った。
──“私はあの人達のお人形なんだよ。なんでも言うことを聞く、いつもはそこにいない透明なお人形なの”──
赤木以外の人間が聞けば、そんな芽依を恐ろしく感じたかもしれない。赤木だったから、芽依を受け入れることができた。
『芽依は家で無視されていたんです。食事の用意はあっても自分の部屋でひとりで食事をする、誕生日も祝われたことがない。その代わり祖父母の前や家に人が集まる時だけは、父親も母親も極端に芽依に優しい。芽依の両親は外面だけはいい親を演じていた。だから誰も育児放棄には気付かない』
『まさに仮面家族だな。……見えない虐待か』
『その通りです。芽依は親の必要な時にだけ“娘”を演じる透明な人形に徹していました』
夏が終わり、赤木の昔話は事件が起きたあの10年前の秋を迎えた。
赤木を乗せた車が都心に張り巡らされた大動脈を縦横無尽に走る。この車はどこまで走り続けるのだろう、最後は自宅まで送り届けてくれるのか赤木はふと疑問に思った。
『10年前の殺人事件、お前達が殺したのか?』
得体の知れない男から核心の言葉が放たれても赤木は動じない。彼は静かに頷いた。
『俺が殺ったんです』
『芽依も一緒に、だろ? それもどちらかと言えば芽依が主犯だ。最初に親の殺害計画を持ちかけたのは芽依じゃないのか?』
『違います。俺が……殺そうって……』
『嘘だな。お前は芽依に殺人をさせたくなかった。お前から殺人の提案はしなかったはずだ』
──“あの人達が死ねば私は幸せになれるのかな”──
それが10歳の少女の願いだった。まだ、たった10年しか生きていない芽依の結論だったのだ。
『どうして芽依に加担した? いくら芽依を可愛がっていても結局は他人だ。他人のために自分が犯罪者になる、お前をそこまで突き動かしたものは何だ?』
『……同じなんです。俺も親を殺したいと思っていた子どもでした』
前傾姿勢になった赤木は握り締めた拳を額に寄せた。10年前も10年後も一生消えない苦悩と葛藤が彼を苦しめ続けている。
『共鳴ってヤツですかね。初めて芽依を見た時から不思議と感じていた感情がありました。それが何かはわかりません。だけど芽依と俺は同じだった。俺は芽依を……助けたかった』
『だから両親を殺して芽依を親の人形から解放した……そういうことか』
『はい。10月に入った頃には芽依は親殺しを決めていました。あとは決行をいつにするか……。芽依は母親だけではなく自分に無関心な父親も憎んでいた。仕事が忙しい父親が家にいることはあまりなく、決行日がなかなか決まらなかった』