【Guilty secret】
 赤木をマンションの前で降ろして車が走り出す。赤木との会談を終えた佐藤瞬は、二本目の煙草に火をつけて東京の夜道を観覧していた。

『赤木の言った“共鳴”の意味、お前はわかるか?』

佐藤が運転席の日浦に尋ねる。日浦はハンドルを操作しながら答えた。

『自分にはさっぱり……。共依存や自己投影のようなものでしょうか?』
『確かにそれもある。でもそれだけじゃない。どうしても居るんだよ。立場や年齢を越えて“共鳴”してしまう相手が……』

 今夜は月が綺麗に出ていた。東京の濁った空気も月の光が浄化していると思えばこんな場所にも少しは救いがある。

どんな場所でも月はいつも綺麗だった。月はそこに居るだけで誰かの救いの存在になる。

佐藤と美月が“そう”であったように。
赤木と芽依も“共鳴”し合った。

『ここまで自分と似ている人間に遭遇するとは思わなかった』
『ボスと赤木は精神的なドッペルゲンガーみたいですね』
『巧いこと言うな。精神的なドッペルゲンガー……なるほどね』

 佐藤瞬と赤木奏。 顔や性格や境遇でもなく、守りたい宝物のために人生を捧げた二人の男の生き方は似ていた。

この二人の男も、“共鳴”し合ったのかもしれない。


        *

 清宮芽依は明日のバイトに備えて寝支度を始めていた。読みかけの小説を数ページ読み進め、そろそろ寝ようと間接照明に手を伸ばす。

ふいに、間接照明の下に置かれた携帯電話が鳴り出した。ディスプレイに浮かぶ赤木奏の三文字に心が躍る。

「……もしもし」
{……芽依}

名前を呼ばれてきゅっと締め付けられる心の感覚が心地いい。

「あの……どうしたんですか?」
{明日バイトか?}

抑揚のない赤木の声も芽依には精神安定剤と同じ。

「18時までバイトです」
{バイトの後、何か予定は?}
「何も……ないです」
{じゃあ明日バイトの後に、二人で会おう}
「えっ? ……それってデート?」
{かもな}

 芽依は瞳を潤ませて赤面した。デートであることを赤木は否定しなかった。

{注文した本は明日受け取りに行くから}
「はい。お待ちしています」

赤木が店にも来てくれると思うと明日が待ち遠しくて堪らない。

{明後日もバイトある?}
「明後日はお休みです」
{なら泊まれる用意もしておけよ}
「泊まるんですか?」
{どこかにはな。用意は下着の替え程度でいい}

 どこかには、と彼の意味深な言い回しが気になったが、明後日の日曜日まで赤木と一緒にいられる。

待ち合わせは三軒茶屋駅前に18時。明日の赤木と過ごす時間を夢見て、芽依は眠りについた。

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